田村 MITの人たちはハイテクに対してきっとこだわりをお持ちですよね。顧客とそのニーズを見続ける重要性はわかっていても、素晴らしい技術があればみな欲しがるだろうとつい思ってしまうハイテクの魔力に襲われる恐れがあると思うのですが、自分たちのコアを見極めるときにどんなアドバイスをしてあげるんですか。

ビル とても良い質問だと思います。コアの開発は、お客様に関係してきます。24ステップの10~11で示していますが、コアは必ずしもテクノロジーでなくていい、と教えています。

 たとえば「ネットワーク効果」でもいいんです。実際、ネットワーク効果というのは、テクノロジーよりパワフルなコアになり得ます。リンクトインはこれを利用して、非常に素晴らしいビジネスを展開して、競争上の優位性もどんどん強くなってます。eBayの場合も、買う人が集まっているから売る人がさらに集まるという好循環をもたらしています。

 アパレル通販サイトのザッポスも、コアの定め方で参考になります。彼らのコアは、やることすべてで顧客へのサービスにコミットしている点にあります。それも中途半端なやり方ではなく、完全にフォーカスしています。

「コアは強くするだけでなく、本当に顧客の価値になっているかを注視していなければなりません」(ビル・オーレットさん)

 ともかくコアという場合は、それが技術的能力であろうとネットワーク効果であろうと、顧客サービスへのコミットであってもUX(ユーザーエクスペリエンス)であろうとも、そこに注力して守らなければなりません。

 ライバルをなんとか突き放そうとしてお互いに成長していくわけですが、自分たちが力強く成長を続けていけば敵もそのうち諦めます。ただそこで大事なのは、コアというのは強くするだけでなく、それが本当に顧客の価値になっているかを常に注視していなければなりません。

重要になってきている「ヒップスター」

田村 なるほど、確かにそうですね。ではせっかくの機会なので、ここからは会場から質問をお受けしていきます。

会場A ボストン・ケンブリッジ地区とシリコンバレー、それぞれのエリアで生まれるスタートアップの特徴にはどのような違いがあるでしょうか。

ビル MITの有無じゃないですか(笑)。

 真面目に答えると、エリアはあまり関係ないですね。お客様が欲しいモノを提供できればいいわけです。強いていえば、シリコンバレーはボストンと結構似ていて、サンフランシスコはニューヨーク(NY)と似ていると思います。つまり、沢山のテクノロジーが必要な場合ーーエネルギーや医療製品、カーウェアなどのハードテクノロジーが得意なのがシリコンバレーやボストンです。ハードウェアのテクノロジーを必要としないeコマースなどについては、NYやサンフランシスコ、ロンドン、ベルリンのほうが得意です。ボストンやシリコンバレーはもともとテクノロジーとビジネスが得意でした。ハッカー(製品開発者)とハスラー(事業開発者)、つまり技術系の人とビジネスの人が一緒に仕事をしている環境でしたから。

 でも、だんだん重要になってきているのがUXです。テクノロジーはコモディティ化してきています。ハッカーとハスラーだけでは十分でなく、今後はモノ・サービスの使い方をデザインするアーティストに当たる「ヒップスター」が必要になります。そういう人がいるのはNYやサンフランシスコ、ロンドン、ベルリンですね。ボストンやシリコンバレーにはまだ見当たりません。

 “東海岸VS西海岸”という話はよく言われますが、私はそういう見方はあまり好きではありません。起業家はみんな友達であって、「敵」ははっきりしています。投資銀行ですよ(笑)。彼らがメチャクチャにした経済を立て直さなければならない、と私たちは使命感に燃えています。