毎年900もの新会社を生み出すMIT式スタートアップの教科書『ビジネス・クリエーション!』の著者ビル・オーレット氏の来日に合わせ、新進気鋭の起業家である高萩昭範氏(Moff代表取締役)と劉 延豊氏(TVision Insights CEO/Co-founder)、モデレーターとして田村大氏(リ・パブリック共同代表、東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェロー)をお迎えして、「起業家のためのゼロからうみだすビジネス・クリエーション術」セミナーを昨年末開催しました。どうすれば新たなビジネスを生み出せるのか? MITの何がその高い起業実績につながっているのか?という秘密に迫るセミナーの内容を3回に分けてお送りするうちの最終回! パネル・ディスカッションの後半をお届けします。

田村 ビルさんのプレゼンテーションをお聞きになって、どんなことを感じられましたか。

高萩 ビルさんが指摘された「アントレプレナーはプロフェッショナルとして扱われるべき」という点には非常に共感しました。日本では起業家について「あの人はすごい」「あの人はカリスマだ」という話になりがちですが、個人的にはそんなことないだろう、方法論があるはずだと思ってきました。私たち自身も実際に沢山の人から方法論を学んできましたし。

 質問が1点あります。スタートアップを立ち上げた後、売上げもある程度伸びてきた場合、どの段階で特に24ステップのどんな点に立ち戻るべきなのか。一度ビジネスをまわし始めると、日々のオペレーションなどに忙殺されてしまって、なかなか立ち止まれないという実感があるため、どういうタイミングで振り返るべきなのか、伺いたいです。

ソニーやホンダなど大企業でも求められる<br />アントレプレナー的マインドやメソッドは同じ!<br />〜MIT式スタートアップに学ぶ〜右から高萩さん、劉さん、ビルさん、田村さん高萩昭範氏:ウェアラブル・スマートトイ「Moff Band」を提供する株式会社Moffの代表取締役。京都大学卒業後、経営コンサルティング会社A.T.カーニーを経てメルセデス・ベンツ日本にて自動車のプロダクトマネージャーを務める。その後独立してWebサービスを立ち上げ後、2013年10月株式会社Moffを設立。2014年4月、ウェアラブルセンサー解析技術を組み合わせた拡張体験プラットフォーム「Moff Band」が米国クラウド・ファンディングKickstarteにて目標の4倍となる支援額を達成。2014年10月に販売を開始し、日米Amazonの電子玩具カテゴリーにて2位にランクイン。 劉延豊氏:オンライン化が進むテレビのターゲット視聴者に効率的にアプローチできるソリューションを提供する「TVision Insights」CEO/Co-founder。MIT Sloan MBA Candidate Class of 2015。日本で小学校と大学時代を過ごし、日・中・英語のトリリンガル。東京工業大学工学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社を経て、共同創業者として中国にて游仁堂(Yo-ren Limited)を設立。游仁堂は上海のデジタル・マーケティング会社として10社以上のナショナル・クライアントを抱える。近年、米国で設立し注力するのが「TVision Insights」である。 ビル・オーレット氏:マサチューセッツ工科大学(MIT)で起業家教育を担うMITマーティン・トラスト・アントレプレナーシップ・センターのマネージング・ディレクターであり、人気講師のひとりでもある。みずから創業したセンサブル・テクノロジーズ社など複数のベンチャー企業の社長・役員ほか、MITスローン・スクール・オブ・マネジメントの上級講師を兼務。IBM勤務を経て、MITスローン・スクールで経営を学んだのち起業した経験をもつ。センサブル・テクノロジーズ社は20ヵ国へ進出し、24以上の賞を受賞、『フォーチュン』誌やビジネスウィーク、ウォールストリート・ジャーナル等に取り上げられている。ハーバード大学卒(エンジニアリング)、MITスローン・スクールで経営学修士取得。田村大氏:株式会社リ・パブリック共同代表。東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェロー。2005年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博報堂イノベーションラボにてグローバル・デザインリサーチのプロジェクト等を開拓・推進した後、独立。人類学的視点から新たなビジネス機会を導く「ビジネス・エスノグラフィ」のパイオニアとして知られ、現在は、地域や組織が自律的にイノベーションを起こすための環境及びプロセス設計の研究・実践に軸足を置く。共著に『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』(早川書房)など。京都大学、九州大学、お茶の水女子大学、神戸情報大学院などで非常勤講師。情報処理学会学会誌編集委員、International Journal on Multi-disciplinary Approaches to Innovation編集委員等。内閣府、経済産業省、科学技術振興機構等でイノベーション推進・人材育成に関する研究会委員を歴任。

ビル よくわかります。でも、ビジネスを進展させる間にもマーケットなど環境は常に変わっていくので、いつどんなときもビジネスを見直さなければなりません。もし市場が変化しているのにビジネスに手を入れないと、ライバルにあっさりやられてしまう可能性があります。常にどのステップにおいても見直して下さい。

 たとえば、ニールセンという非常に歴史のある成功した会社(世界的な情報調査会社。1923年設立)は、シェアを確保して高い利益率を誇っていました。でも、ちょっと怠けてしまったために、アグレッシブなスタートアップの参入チャンスを作ってしまったわけです。参入企業が成功したのは大企業になってしまったニールセンよりうまくペルソナ(潜在顧客像)をイメージできたお陰でしょう。ビジネスにおいて、いかにペルソナをつくるか、そしてペルソナにあった人を雇うか、は非常に大切です。ビジネスが変化しているときはニーズも変化しており、あなたも変わらなければなりません。

 アップルがiTunesをつくったときは、音楽市場全体を揺るがしました。なぜなら、それまで音楽業界は(一定期間につき定額料金を支払う)サブスクリプション方式で収益を得ていたのに、アップルがいきなり1曲99セントという新たな料金体系で売り出したためです。

 これは技術で勝負したわけではなく、自分で好きな曲だけ買ってキープしておきたいというお客様のニーズに目を付けたアップルの慧眼でしょう。あっという間に高いシェアをとりましたが、最近また市場に変化が生じ、月額のサブスクリプションといった提供方法に人気が出てきたようです。ですからアップルもみずから変わらなければいけないし、変わろうとしていますね。

 常に顧客のニーズが変わることを理解しなければなりません。そして先ほどの例のように、良いアイデアのもと人気が高まって高いシェアを確保できた場合も、もっと強いビジネスが出てきて市場をさらわれる可能性もありますから、自分の強みがどこにあるのか明確にしておきましょう。成功を勝ち取るには、追随してくるライバルを必ずベンチマークしておかなければなりません。チェッカーではなく3Dのチェスをしていると思って下さい。