毎年900もの新会社を生み出すMIT式スタートアップの教科書『ビジネス・クリエーション!』の著者ビル・オーレット氏の来日に合わせ、新進気鋭の起業家である高萩昭範氏(Moff代表取締役)と劉 延豊氏(TVision Insights CEO/Co-founder)、モデレーターとして田村大氏(リ・パブリック共同代表、東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェロー)をお迎えして、「起業家のためのゼロからうみだすビジネス・クリエーション術」セミナーを昨年末開催しました。どうすれば新たなビジネスを生み出せるのか? MITの何がその高い起業実績につながっているのか?という秘密に迫るセミナーの内容を3回に分けてお送りするうちの最終回! パネル・ディスカッションの後半をお届けします。
田村 ビルさんのプレゼンテーションをお聞きになって、どんなことを感じられましたか。
高萩 ビルさんが指摘された「アントレプレナーはプロフェッショナルとして扱われるべき」という点には非常に共感しました。日本では起業家について「あの人はすごい」「あの人はカリスマだ」という話になりがちですが、個人的にはそんなことないだろう、方法論があるはずだと思ってきました。私たち自身も実際に沢山の人から方法論を学んできましたし。
質問が1点あります。スタートアップを立ち上げた後、売上げもある程度伸びてきた場合、どの段階で特に24ステップのどんな点に立ち戻るべきなのか。一度ビジネスをまわし始めると、日々のオペレーションなどに忙殺されてしまって、なかなか立ち止まれないという実感があるため、どういうタイミングで振り返るべきなのか、伺いたいです。
ビル よくわかります。でも、ビジネスを進展させる間にもマーケットなど環境は常に変わっていくので、いつどんなときもビジネスを見直さなければなりません。もし市場が変化しているのにビジネスに手を入れないと、ライバルにあっさりやられてしまう可能性があります。常にどのステップにおいても見直して下さい。
たとえば、ニールセンという非常に歴史のある成功した会社(世界的な情報調査会社。1923年設立)は、シェアを確保して高い利益率を誇っていました。でも、ちょっと怠けてしまったために、アグレッシブなスタートアップの参入チャンスを作ってしまったわけです。参入企業が成功したのは大企業になってしまったニールセンよりうまくペルソナ(潜在顧客像)をイメージできたお陰でしょう。ビジネスにおいて、いかにペルソナをつくるか、そしてペルソナにあった人を雇うか、は非常に大切です。ビジネスが変化しているときはニーズも変化しており、あなたも変わらなければなりません。
アップルがiTunesをつくったときは、音楽市場全体を揺るがしました。なぜなら、それまで音楽業界は(一定期間につき定額料金を支払う)サブスクリプション方式で収益を得ていたのに、アップルがいきなり1曲99セントという新たな料金体系で売り出したためです。
これは技術で勝負したわけではなく、自分で好きな曲だけ買ってキープしておきたいというお客様のニーズに目を付けたアップルの慧眼でしょう。あっという間に高いシェアをとりましたが、最近また市場に変化が生じ、月額のサブスクリプションといった提供方法に人気が出てきたようです。ですからアップルもみずから変わらなければいけないし、変わろうとしていますね。
常に顧客のニーズが変わることを理解しなければなりません。そして先ほどの例のように、良いアイデアのもと人気が高まって高いシェアを確保できた場合も、もっと強いビジネスが出てきて市場をさらわれる可能性もありますから、自分の強みがどこにあるのか明確にしておきましょう。成功を勝ち取るには、追随してくるライバルを必ずベンチマークしておかなければなりません。チェッカーではなく3Dのチェスをしていると思って下さい。