毎年900もの新会社を生み出すMIT式スタートアップの教科書『ビジネス・クリエーション!』の著者ビル・オーレット氏の来日に合わせ、新進気鋭の起業家である高萩昭範氏(Moff代表取締役)と劉 延豊氏(TVision Insights CEO/Co-founder)、モデレーターとして田村大氏(リ・パブリック共同代表、東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェロー)をお迎えして、「起業家のためのゼロからうみだすビジネス・クリエーション術」セミナーを昨年末開催しました。どうすれば新たなビジネスを生み出せるのか? MITの何がその高い起業実績につながっているのか?という秘密に迫るセミナーの内容を3回に分けてお送りする第1弾! オーレット氏の基調講演です。

 アントレプレナーシップに求められる資質は、何だと思いますか?

 そう、スピリット。それも、人と違うことを求める気質が求められます。他の魚がみな左に向かって泳いでいたら、右に向かって泳ぐようなね。

 ただし、スピリットだけあっても不十分です。スキルも重要です。スキルがないと、自分の子どもを訓練もさせず武器も持たせずに闘いに出向かせるようなものです。実際、そういう事態が起こってしまっています。

セミナー当日の様子(開催場所:NTTドコモ・ベンチャーズのセミナールーム)

 なぜだと思いますか? アントレプレナー教育の需要は非常に高まっているのに、質のよい教育が十分行き渡っていないからです。じゃあ教えればいいのに、と思われるでしょうが、それが非常に難しい。状況によって異なる対応が求められるため、数学や物理のように一定のルールですべての解になるということがありません。

 それに、メンターシップも必要です。スポーツを観戦するより実践することに近いため、教える人にも経験が必要です。大学できちんと研究されていない分野でもあるし、この分野に関するクリーンなデータは一部の大企業が出さない限り手に入らないという不幸な状況にもあります。

 そんなこともあって、アントレプレナー教育においては間違ったやり方がまかり通ってしまっています。たとえば、手っ取り早く起業家たちから話を聞く機会を設ければいいじゃないか、となります。実際に私も頼まれて講演したことがありますが、授業として体系化せず話すだけならこの上なく簡単です。

「いいか、みんな! アントレプレナーシップってやつは、バスケットボールみたいなものさ。一生懸命トライして、失敗してもくじけず、ゴールがみえれば勝てるぜ」

 そんな話でも学生たちは手をたたいて喜んで、講演後のアンケートを見ても高い評価を得ていたものです。でも、学生たちがそれで自分が何をすべきか理解できると思いますか? 家に帰って寝て、次の朝起きたら、えーっとどうすりゃいいんだっけ?とすべては消え去っているに違いありません。メリットがあるとすれば、モチベーションが得られることぐらいでしょう。

いろいろ名著はあれど、1冊で完璧な“ツール”は存在しない

 それから、起業家を目指す人は、“最新の流行りのツール(編集部注:ノウハウ本の数々)”に滅法弱いものです。このツールひとつあれば、すべてが解決できると勘違いして、次々と新しいツールに手を出しますが、解決にはつながりません。

 残念ながら、起業プロセスは皆さんが考えるよりもっとずっと複雑なんです。先達が編み出したツールにはもちろん学ぶべき点が多いのですが、起業プロセスを網羅していて、なおかつデータ的な裏付けのある最強の1冊は私の経験から考えてもありませんでした。