がんに対する治療は日進月歩だ。近年、保険適用されたばかりの注目されている新手術を『ダイヤモンドQ』編集部が紹介する。
2014年4月、胃がんの一種、胃粘膜下腫瘍(GIST〈ジスト〉)などの胃の病変を局所的に切除する画期的な手術法が保険適用として認可された。「腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除」(LECS〈レックス〉)だ。
開発者である、がん研有明病院消化器外科胃担当部長の比企直樹医師は、レックス誕生のきっかけを「余分な胃を切りたくない。患部だけを正確に切り取りたかった」と話す。
胃粘膜下腫瘍は、他の胃がんとは違いリンパ節などに転移しにくいため、同院では従来、身体への負担が少ない腹腔鏡下で、がんの周囲だけを切除する胃局所切除術を積極的に行ってきた。
「胃を外側から局所的にくりぬくのですが、簡単そうに聞こえて実は非常に難しい。風船の中にあるボールを、外側から包み込むようにして切り取る要領で胃の壁を大きく切り取らなくてはならないため、実際の腫瘍よりもずっと広い範囲を切除せざるを得ず、胃の機能を著しく損なってしまう」と、比企医師は振り返る。
何とか簡単かつ正確に行えるようにできないかと考え抜いた末、思い付いたのがレックスだった。腹腔鏡と内視鏡を使い、胃の内外から同時に手術することで、がんの範囲を正確に見定めて切除する。そのため切除する範囲が最小限で済み、手術後の胃の変形も最低限で済む上に、胃の機能をほとんど損なうことなく手術することができる。手術時間は通常の腹腔鏡手術に比べて「30分ほど長くなるだけ」だという。
具体的には、(1)胃の中に挿入した内視鏡で観察しながら、がんの周りの粘膜を内視鏡下に切開し、腫瘍の切除ライン(切り取り線)を決定する。切り取り線の一部から胃に孔を開ける。(2)胃の外側からも腹腔鏡を使い、切り取り線を頼りに超音波凝固切開装置でがんを切り取る、という二つの作業を同時に行う方法だ。