胃がん発症要因の一つと見なされているヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)。最近は一般にも認識が広まり、除菌療法を受ける人が増えてきた。ところが、ピロリ菌も並行して抗菌薬に対する「耐性」を獲得。除菌失敗例が増えつつある。
保険診療での除菌療法は胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫などの治療に限られている。現在、製薬企業9社が共同で適応拡大を申請中だが、今のところ「感染」という事実だけで胃がん予防の除菌をするには自腹を切るしかないわけ。となれば確実に除菌できるに越したことはない。
先日、世界五大医学雑誌の一つ「ランセット」にピロリ除菌の標準療法と他法との比較が報告された。台湾在住のピロリ菌感染者900人が参加した試験の結果、胃酸分泌を抑える薬(PPI)+抗菌薬2剤を同時に14日間飲む標準療法よりも、まず7日間、PPI+抗菌薬1剤を飲み、さらに7日間PPIと、それまでとは違う抗菌薬2剤を飲む「4剤順次投与法」の除菌率が勝っていたのである(82.3%と90.7%)。また、4剤順次投与法の期間を5日間+5日間の合計10日間に短縮しても、除菌率は87.0%と標準療法を上回った。参考までに日本での標準的な除菌療法は、3剤併用、7日間の服用である。
今回の報告は、2008年に欧州から報告されたメタ解析(複数試験の総合解析)の追試。4剤順次投与法が標準療法を上回ると東アジア圏で確認した意味は大きい。というのは、胃がんを引き起こすほど毒性が強いピロリ菌は東アジアに集中しているからだ。そのせいか、世界の胃がん患者の実に3分の2が日本、韓国、中国の3カ国で占められている。ちなみに使用薬剤は若干異なるが、2012年11月には韓国からも、4剤順次投与法(5日間+5日間)を支持する試験結果が報告された。
台湾の研究者は「4剤順次投与法が除菌治療の第1選択になる」としているが、日本では「保険適応の壁」があり簡単にはいかない。それなら自由診療を逆手にとって、医師の助言を受けながら効果的な方法を選ぶのがいい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)