クラウドコンピューティングは、ICTベンダー自身にも従来の製品販売からサービス提供へと、ビジネスモデルの大きな転換を迫る。果たしてベンダー各社は、どのような事業戦略を描き、激戦市場を勝ち抜こうとしているのか。今回は日本IBMの取り組みを紹介する。
ユーザーニーズに応じて
さまざまなクラウド利用形態を提供
クラウドには、サーバやソフトウェアを、不特定多数が共有して利用する「パブリッククラウド」、企業が個別に利用する「プライベートクラウド」、それらを連携して利用する「ハイブリッドクラウド」といったサービス形態がある。
その中でもクラウドが注目を集めるきっかけになったパブリッククラウドには、ハードウェアを中心としたICT資源をサービスとして利用する「IaaS(Infrastructure as a Service)」、ソフトウェアの開発・実行基盤である「PaaS(Platform as a Service)」、アプリケーションソフトウェアを利用する「SaaS(Software as a Service)」がある。
IBMのクラウド事業は、これらをすべて手掛けている(図1参照)。日本IBMでクラウド事業を統括する小池裕幸執行役員はその特徴について、「既存のシステムとクラウド環境を最適なバランスで選択できることにある」と言う。どういうことか。
小池氏は図2を示し、他のクラウドベンダーとの違いを踏まえて次のように説明した。
「企業が使うITの構成要素は、図の左側にあるように、ネットワークからストレージ、サーバ、OS、ミドルウェア、アプリケーション、データなどといった階層に分かれている。これまでの企業内システムは、こうした階層をすべてユーザーごとに独自で所有してきた。これに対してクラウドベンダーは、IaaSではハードウェア層、PaaSではミドルウェア層、SaaSではアプリケーション層までをユーザー間で共有して利用できるようにしたサービスを提供している」