「過剰」が心の健康状態を損う原因

奥田「有形」を捨てることによって「無形」のものが手に入る。頭ではなんとなくわかっても、それを理解し実践するというのは、やはりとても難しいことなのでしょうね。

やました そこは、少しずつやっていくしかないのです。時に小さな失敗、つまり、あれっ、捨ててしまって困った、という痛みも味わいながら、それでも、捨てることによって得られる爽快感や解放感を味わいながら、不快と快の間を行ったり来たりして螺旋階段を昇っていく。
たしかに、モノを捨てるのは、実は非常に難しいこと。
 なぜなら、モノを始末していくためには、その対象物への執着心と闘わなければならないからです。
 でも、ここで考えてほしいのは、今、私たちが健康を損ねているとして、それは過剰なモノによって損なわれているのか、それとも不足で損なわれているのか、ということです。
 モノがあふれている時代ですから、栄養の過剰摂取など、「過剰」が原因で健康状態を損ねている人が大半ではないでしょうか。それは、モノの持ちすぎも同じことです。

奥田 拙著『メリットの法則』を執筆するよりもずっと以前に、不安障害や強迫性障害の患者の特徴を見て「人はなぜ“好子消失阻止”をするのか」ということを考察してみたんです。
  “好子消失阻止”というのは、持っているもの(財産や健康など)や手に入り続けるもの(定期的に入ってくる収入など)を失う可能性を阻止する行動の原理なんですけど、これが行きすぎると、極めて不健康な状態に陥ってしまう。それはそうですよね。あれも失いたくない、これも失いたくないとなったら、悩みが増えて精神的にもまいってしまう。交友関係も、仲間をなくさないようにたくさんのおつき合いを得て安心したつもりになっている人がいますが、これは明らかに錯覚です。楽しみも増えるでしょうが、憂いも増えますから。

やました まさに「備えあって憂いあり!」ですね。
(次回へつづく)

<著者プロフィール>
臨床心理士/専門行動療法士/行動コーチングアカデミー代表。兵庫県西宮市生まれ。
常識にとらわれない独自の指導プログラムにより、さまざまな子どもの問題行動を改善させる行動分析学者。数万件以上の難問題を解決してきた手腕から「子育てブラック・ジャック」と呼ばれ、日本各地のみならず世界各国から指導依頼を受ける国際的セラピスト。年間のべ1000件以上の相談活動を行い、これまでの相談実績は数万件以上。桜花学園大学大学院客員教授など研究者としてのキャリアを経て、2012年に長野県西軽井沢に5000坪の敷地を買い取り、「行動コーチングアカデミー」を設立。発達障害、自閉症、不登校などの問題解決に関わる人材育成を行い、現在、日本初の行動分析学を軸とした私立幼稚園の設立を準備していることでも注目を浴びている。「日本行動療法学会内山記念賞」(1999年)、「日本教育実践学会研究奨励賞」(2003年)、「日本行動分析学会学会賞(論文賞)」などを受賞。行動科学系の2大学会で初のダブル受賞となる。『NNNドキュメント』『スッキリ!!』(日本テレビ系)では、 「今、最も注目されている教育者」として紹介。『あさイチ』(NHK総合)他にも出演。本書では、子育てにまつわる具体的な『行動の処方せん』を公開。著書にベストセラーとなった『叱りゼロで「自分からやる子」に育てる本』(大和書房)、『メリットの法則――行動分析学・実践編』(集英社)、『拝啓、アスペルガー先生――私の支援記録より』(飛鳥新社)、『自閉症児のための明るい療育相談室――親と教師のための楽しいABA講座』(共著、学苑社)などがある。
【奥田健次オフィシャルブログ】
http://www.diamondblog.jp/kenjiokuda/