「断捨離」で物理的な空間と
「心理的な空間」をつくる

やました モノには想いがはりつくんですよ。でも、モノがなければ、そんな想いも持たずにすみます。何でも「空間」を持たせることが大事です。
 空間というのは、物理的な空間もそうですし、「心理的な空間」もそうです。もっと日本的に言うと、「間(ま)」をどうつくっていくか、ということですね。
 そして、その「間」に、いろいろなものがサラサラと流れていくことによって、私たちは健やかな新陳代謝のある命でいられる。「間」がないと、私たちは、思考停止、感覚麻痺、感性鈍化に陥ってしまうのですね。
 だからこそ、「断捨離」によって物理的な空間をつくると同時に、心理的な空間もつくっていくのです。

奥田健次(おくだ・けんじ)
臨床心理士/専門行動療法士/行動コーチングアカデミー代表。常識にとらわれない独自の指導プログラムにより、さまざまな子どもの問題行動を改善させる行動分析学者。数万件以上の難問題を解決してきた手腕から「子育てブラック・ジャック」と呼ばれ、日本各地のみならず世界各国から指導依頼を受ける国際的セラピスト。『NNNドキュメント』『スッキリ!!』では、「今、最も注目されている教育者」として紹介。『あさイチ』他にも出演。著書に、『世界に1つだけの子育ての教科書』『拝啓、アスペルガー先生【マンガ版】』『叱りゼロで「自分からやる子」に育てる本』『メリットの法則』など。

奥田 僕、これまで2つの大学に辞表を出しました。いずれも常勤の教員だったのですが、両方とも次の仕事が決まる前にそういう思い切ったことをしたんですよ。アカデミックの世界では、常勤の大学教員というポジションは誰もが欲しがるわけです。
 多くの人はその機会に恵まれず、非常勤で苦しい生活を送っておられます。非常勤は給料も不安定なので、願わくば常勤の教員になりたいという人がたくさんいて、大学教員公募に応募してこられます。そういうのが通常なのですが、僕は2校で辞表を出した。おそらく大学関係者からしたら、宇宙人に見えたでしょう。そして、ナマイキだと(笑)。
 もちろん、大学を辞めるにあたって不安がなかったかと言われれば、「不安も少しは頭をよぎりました」と答えます。なにしろ、毎月25日に振り込まれていた給料が、その4月からゼロになったわけですから(笑)。
 でも、そんなことはどうでもいい。今はむしろ、清々しい気持ちに満たされていますよ。これも広義の「断捨離」ですよね。

自分自身が次へのステップに上がる
きっかけになる「断捨離」

やました そうです。ここがとても大事な点なのですが、誰でも損はしたくない。誰でも損は怖れる。でも、断捨離の「捨てる」という行為は、それこそ、目の前からモノがなくなるのだから、一旦は、どうしても損を経験しなくてならない。だから、断捨離にはそれなりの覚悟と勇気が必要になるのです。
 それがないと、いつまでたっても「断捨離」などできません。でも、それを乗り越えて「断捨離」すれば、奥田先生のように心の軽やかさを得ることができます。

奥田 どうして損することにばかりに、目が行ってしまうのでしょうね。

やました 捨てることで、逆に何かが得られるというイメージが、とてもわきにくいのだと思います。特に「断捨離」の場合、捨てるのはカタチのあるモノなのに、入れ替わりに入ってくるのはカタチがない。私たちは、カタチあるモノの方に焦点を合わせがちですからね。
 奥田先生の例で言うと、軽井沢の別荘を損も覚悟で手放した代わりに、心の軽やかさが手に入ったわけですよね。心が軽くなるということは、気分的な安堵感が得られるだけでなく、自分自身が次のステップに上がるきっかけにもなるはずです。目先の損得にとらわれすぎて「断捨離」せずに、本当に大事なチャンスを逃しているとしたら、これは本当にもったいない話です。

奥田 子育てでも、私はどの親御さんにも「子どもを手放すことが大事ですよ」と助言しています。ネグレクトのような放任は論外ですが、そういう意味じゃありません。「親がなんとかしなきゃ」という思いを捨てることの大切さと、その先にあるものを伝えているのですが……。

やました親子関係の「断捨離」ですね。

奥田 本書では「イネイブラーにならないように」というメッセージとともに、どうして「なんとかしなきゃ」から解放される必要があるのか、説明しています。「嫌われたっていいじゃないか」という最後のメッセージもそうです。

やました 通じるところがありますね。断捨離とは、モノへの問いかけを通して、自分自身の思考・感覚・感性を取り戻していくプロセス。それは、すなわち、他者への依存や他者からの干渉を少しずつ卒業していく力をつけることでもありますから。