しかし、開発3年目に入った2014年、ようやくブレイクスルーの時が訪れる。

糖質オフを
キリが悪い「40%」にした理由

 ユーザーへの無提示調査(商品名を伏せて試飲してもらい、点数をつけてもらう)でも、通常のビールと変わらないハイスコアを獲得できるようになり、味の帰着点が見えてきたのだ。しかし、寺門さんは「それでも安心できなかった」と明かす。

 何せターゲットは、本物のビール通である。通常に増して幅広い層に対し、膨大な調査を何度もしつこいまでに繰り返す。他にはない「日本初」の商品が生まれたのも、チーム全員が自らをギリギリのところまで追い込み、“生みの苦しみ”を散々に味わったからこそ、なのだ。

「なぜ切りのいい数字にしなかったのかと尋ねられることがあるんです」と寺門さんが言う。糖質オフの数値、40%についてである。確かに、どうせやるならなぜ50%オフを目指さなかったのか? 答えはズバリ「40%オフが目指す味を実現するギリギリのラインだったんです」。なるほど。中途半端にも思える40%という絶妙な数字にこそ、スペックありきではなく、美味しさを貪欲に追求した開発チームのこだわりが隠されていたのである。

「ともかく飲んでいただければわかります」。そう胸を張る寺門さんと山口さんに渡された試飲用のビールを、筆者は帰宅後、家の冷蔵庫で冷やし、ビールグラスに注いでみた。

 魅惑的な黄金色ときめ細やかな白い泡のコントラストに喉が鳴る。ゴクッと一口。麦芽の香り、味わいがしっかり。そしてのど元にスキッとしたキレ、爽快感が広がる。「そうそう、ビールはこれでなくては」。と、独りごちたところで、念のため缶に記された原材料を確かめた。麦芽とホップのみ。間違いなく本物のビールだ。これで糖質40%オフか……。

 ちょっと悔しい気もするが、黙ってグラスで出されたら、糖質オフとは気づかないだろう。「普通のビール」と言われたら、まんまとだまされるに違いない。しかし、こんなふうにだまされるなら、悪くない気もする。ビール好きなら、この気持ち、わかっていただけるのではないだろうか。

(取材・文/大沢玲子 撮影/和田佳久)

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