資源高に悩む鉄鋼業界で注目の事件が起きている。それは昨年11月から続く、英豪系資源大手BHPビリトンによる、同業リオ・ティントに対する買収提案。もしこの買収が成立すれば、世界の鉄鉱石生産量の約4割ものシェアを持つ巨大な資源会社が誕生することになる。いまのところ、リオ・ティント側の提案拒否と規制当局である欧州委員会による審査結果待ち【※注1】で休戦状態となっているが、この買収劇のゆくえを世界中の鉄鋼関係者たちは固唾を飲んで見守っている。

【※注1】
BHP側はこの買収案を成立させるため、「欧州委員会の承認」と「(リオ・ティント社の)過半数の株主承認」を得る必要がある。今年5月末、BHP側は欧州委員会に対し正式に買収案を提出。欧州委は11月の調査期限日までに、この買収案が適正であるか(EU競争法に抵触しないか)を審査・回答することになっている。

 日本の鉄鋼業界にとってこれは、「対岸の火事」では決して済まされない。企業の存続を問われるほどの大問題なのである。なぜなら、この買収が成立してしまえばさらなる鉄鉱石の高騰を招く可能性が非常に高いからだ。

 ブラジルと並び、鉄鉱石の世界2大生産地であるオーストラリア。この2ヵ国だけで世界の生産量の約8割を占めている。しかも近年、資源会社の各社は合併・買収が相次ぎ、寡占化が進んでいる。さらにもし、今回の買収提案が成立し新会社が誕生してしまえば、豪州産はほぼこの新会社が独占することになる。オーストラリアに輸入の6割を頼っている日本にとっては、これはまさに大問題。豪州産の価格交渉権がこの新会社に握られてしまうことになる。

 それでなくとも近年、中国・インドなど新興諸国の経済発展で「鉄」の需要が大幅に増加し、鉄鉱石は年々高騰。まさに「鉄鉱石バブル」の状態となっている。資源会社と鉄鋼メーカーの立場も完全に逆転。価格決定権は資源会社が握り、鉄鋼メーカーは防戦一方。コスト負担は増すばかりなのである。

たった1年で、過去5年分?!
異常なまでの価格高騰ぶり

 実際に7月28日に行なわれた記者会見でも、日本鉄鋼連盟の宗岡会長(新日鉄社長)が大幅なコスト増を明らかにしている。鉄鉱石や石炭などの原料価格高騰により、2008年度のコスト増が当初予定していた3兆円から3兆5000億円にまで膨らむ見通しであるという。これは、2002~2006年度の合計額に相当する。つまり、たった1年で過去5年分も値上がりしてしまったことになる。

 コスト負担が増えれば当然、鉄鋼メーカーはそれを製品価格に転嫁していくこととなる。しかし、それが思うように進んでいないのが現状だ。主要顧客である自動車メーカーに対してはとくにそうである。

自動車メーカーも苦境に。
進まない国内の価格転嫁

 つい先日、トヨタが自動車販売価格の値上げを発表した。しかしその対象は、ハイブリッド2車種(プリウス/ハリアーハイブリッド)と一部商用車のみ。ガソリン高のあおりを受けて市場が低迷しており、販売への悪影響を恐れ、「最小限」の値上げにとどめた格好となった。世界No.1のトヨタであってもこの状況。いわずもがな、自動車メーカー全体が自動車販売価格を値上げできないというジレンマを抱えている。