だから、大介さんが百歩譲って、原状回復ではなく慰謝料で妥協すること、そして松本氏が自分が壊したものを元通りに戻すことすらできないことを自覚した上で慰謝料を支払うことは、ごくごく当然のことです。

 慰謝料の金額を決める基準のなかで一番大きいのは、「婚姻期間」です。今まで築いてきた夫婦関係を不倫のせいで壊されたわけですが、婚姻期間が長ければ長いほど壊した対象の価値は大きく、そしてその責任が重くなるのは当然と言えば当然です。

 具体的な慰謝料の金額ですが、法務省が公表している司法統計(平成10年)によると、婚姻期間1年未満の場合、慰謝料の平均は約140万円、1年以上5年未満の場合は約199万円、5年以上10年未満の場合は約304万円、10年以上15年未満の場合は約438万円、そして15年以上20年未満の場合は約534万円という具合に、婚姻期間と慰謝料の金額が比例していることがわかります。

 これはあくまで夫婦が離婚する場合に発生する慰謝料であって、不倫相手へ請求する慰謝料の平均値ではありませんが(そのような統計は存在しません)、とはいえ夫婦関係を壊したという意味では配偶者(朋子さん)も不倫相手(松本氏)も同じなので、これを目安に話を進めてもおかしくはありません。

不倫相手である職場の上司に
慰謝料を請求したところ……。

 では、今回のケースではどうだったのか。大介さんは松本氏に対して、次の内容を直談判しました。

「あなたのせいで、14年間かけて築き上げてきた夫婦関係が無駄になり、5334日の間に費やした努力が全て台無しになったのだから、しかるべき責任をとってほしい。300万円の慰謝料を払ってほしい」

 それに対して松本氏は、どのような返事をしてきたのでしょうか。もし、松本氏が「はい、わかりました」と二つ返事で指定の口座に300万円をすんなり振り込んできたのなら、私が大介さんにこれ以上アドバイスをする必要はありませんでした。松本氏が何も反論せず、一切抵抗せず、平謝りしてくれれば良いのですが、実際のところ300万円という大金がかかっているので、そんなに甘くはありません。

 松本氏は様々な言い訳をしてきました。大介さんは予想外の返事に頭を抱えてしまい、私のところに相談しに来たのです。なぜ松本氏は、智子さんに夫(大介さん)がいることを知りながら恋愛関係に発展し、大介さんの家庭を壊しておきながら、慰謝料の支払を拒んだのでしょうか。