私は以前、北海道の産直の魚を低価格レストランチェーンで販売するというチャレンジを行ったことがある。当時、誰もが「そんなことは無理だ、コスト的に合わない」といっていたが、実際にコスト計算を厳密にやっている者はいなかった。感覚的に「無理だ」「無駄だ」といっていただけだった。また、何層にも及ぶ問屋との関係を「中抜き」するのは業界では御法度だったのである。

 しかし、私は、ユニクロが工場と直接取引を行ってカシミヤのセーターを、百貨店で販売されている価格の10分の1の値段で民主化させた事例を思い浮かべ、その戦略が外食でも可能ではないかと思考を張り巡らせた。消費者が外食に求めているのは「味」という価値だ。誰もが自分が消費者になれば分かるはずだ。

 そこで、当時、卸売市場で販売されているすべての魚の販売価格を丹念に分析し流通構造を組み替える提案をした。食材の流通は複雑で、何層にも及ぶ仲卸問屋、そして、彼らの人間関係など乗り越える壁は大きかった。私は、日本のエリアをいくつかに区分し、人間関係のある卸問屋の商圏を避けて、関東圏、中日本、西日本に限定して直接取引を組み立てた。そして、とうとう、北海道産のホタテをレストランチェーンで販売することに成功したのである。そのファミレスは、「安いのに美味しい」という、きわめてわかりやすい価値を提供することに成功し、大きく成長した。

自社を変える「スイッチ」は
本質的な課題を理解しないと見つからない

 今でも、時々、当時のクライアントの責任者と話をすることがあるが、彼は「私もいろいろなことをやったが、最も業績を上げた施策は『味』をどのように向上させるか、ということを前向きに取り組んだ施策だけだった」と話していた。

 しかし、多くの外食企業が消費者から価値を感じてもらえるもの、つまり「最も本質的な課題」に取り組まず、店頭でタブレット端末を導入するなど“形”から入った施策でお茶を濁している。自分が消費者になって考えてみれば、少々不便でも、味が美味しいという価値を感じれば足が向くのはわかるはずだ。

 だが、本質的な課題を理解せずに、自社にマッチする経営戦略を立てられないとこうした悲劇が頻繁に起こる。さらに、ここを理解していないコンサルタントを雇っても、改革者として投入されたはずの彼らが「本丸の課題」に手を入れないというのはよく見かけるパターンだ。だからどれだけ彼らのアドバイスを聞いても会社は復活しない。

 経営改革は、どこに本質的な問題があり、何をすると変革できるのか、その視点、つまり「スイッチ」を見つけることが重要である。

 この連載では、生々しい経営改革プロジェクトの数々を紹介し、復活した企業の改革事例とそのとき起こった変化のきっかけ(スイッチ)を具体的にお見せしようと思っている。

(カート・サーモン・ユーエス・インク日本支社 パートナー 河合 拓)

【カート・サーモン】全世界13カ国に約1400名のプロフェッショナルを擁する、約80年の歴史を持つグローバル・コンサルティング・ファーム。数多くのコンサルティングファームが機能特化型(戦略系、業務系、IT系)で構成されているのに対し、「業種特化型」を特徴としている。業界に精通した深い分析、戦略立案から実行、IT導入までを一気通貫で行うことができるのが他社にない強みである。
URL:http://www.kurtsalmon.com/ja-jp/

〔今後の“スイッチ”は……〕
◇第2回:百貨店復活のスイッチ〈バリューベース戦略の課題と解決策〉
 嗜好品市場の代表格、百貨店といえば一般的な論調は「時代遅れ」「衰退産業」というもの。しかし、百貨店こそ閉塞感漂うファッション業界の先導者になれる。百貨店復活のスイッチ探しを通じて「価値」を作ることの本質を解説。
◇第3回:現場徹底改革のスイッチ〈オペレーションベース戦略の課題と解決策〉
 必需品市場の経営戦略の難関は「現場」。現場の危機感醸成、マインドセットの変革、現場起点のマイクロマネージの流れの作り方など、現場改革に効くスイッチを生々しい現場の事例で紹介、真に優れたオペレーション戦略を解説。
◇第4回:バリューベース×オペレーションベース戦略の課題解決のスイッチ
 バリューベース戦略とオペレーション戦略の両軸を必要とする課題もある。消費財メーカーのナショナルブランドとプライベートブランド開発・使い分けの現場における問題解決のスイッチを探る。(※内容は変更になることがあります)