「売り方」にこだわっていた経営者が「価値を売る」ことに気づいたとき「モノの見方」が変わる。そこから企業が変わり始める――。行き詰まりを感じる経営者の視点が変わるきっかけ、企業再生のきっかけとなる「スイッチ」の見つけ方を、経営コンサルティングのプロフェッショナル集団・カートサーモンの塚原義章氏が解説する第3回。今回は「価格競争」にさらされ、「現場の力」が浮上のカギを握る企業の改革のスイッチだ。
商品やサービスの価値はそれほど変わらないコモディティ商品が多い「必需品」市場。同業界の競争相手を意識することなくひたすら消費者にとって価値の高いものを出すことが競争戦略となる嗜好品とは異なり、この分野での競争は同一商品間、同一業界で発生する。
そのため、競争の優位性は「価格」「品揃え」だ。限られたニーズに対して、同業者より早く、安く商品を提供することが競争に勝ち抜くポイントで、これには現場のオペレーションが大きく影響する。代表的な業態は総合スーパーや大手ホームセンターなどだ。
昨今、こうした価格競争、品揃えで長らく戦ってきた企業の経営が行き詰まるケースが増えている。今回は、業績不振にあえぐあるホームセンターを例に改革に必要な「スイッチ」を考えてみたい。
なぜ、売れなくなったのか?
カート・サーモン・ユーエスインク日本支社パートナー/ハードライン(日用品製造及び小売)を総括。コンサルタントとしての約20年のキャリアを通じ、小売・消費財・コンシューマ領域における大手企業の成長戦略、商品戦略、チャネル戦略、プライシング戦略、商品プロセス改革、マーケティング部門改革、消費者インサイト、海外M&Aなどを支援。
ホームセンターの起源はアメリカで、日本の高度成長期にDIY、いわゆる“日曜大工”のライフスタイルの普及に伴って存在感を増した業態だ。プロ向けの木材、金槌やネジなどの木工材料から、最近ではカーペットや食器などインテリアまで「日用雑貨」を幅広く取り扱っている。
ホームセンターなどのディスカウンターにとって最も分かりやすい訴求価値は、先に述べたとおり「品揃え」と「価格」である。このホームセンターも、これまでの経営では「店舗の大型化」、「大量購買による原価コストの低減」、「徹底したローコストオペレーションによるブレークイーブン(これ以上コストが上がると赤字が出るという損益ライン)の低下」を基本戦略として拡大してきた。
だが、最近では日用雑貨を売る業態だったホームセンターが生鮮食品を売り始め、同様に、大型スーパーでも日用雑貨を売り出しはじめた。つまり、明確に線引きされていた業態間の垣根がなくなり、差別化しにくくなってきている。
この「異業態混戦」は小売業界全体に言えることで、これまで高級品と言えば百貨店で買うのが当然と思われていたが、コンビニで高級志向のプライベートブランドを開発しそれがヒットするなど、業態での差別化はますます難しくなっていくと思われる。