今回は、私生活や会社生活に悩みを抱える30代後半の男性を紹介したい。このエピソードは、この男性から5~6年のあいだに十数回聞かされたものだ。「迷える会社員」に近寄ってくる人のホンネについて、考えてみたい。
予めお断りしておくが、今回のようなテーマについては、プライバシーの制約もあり、メディアや有識者は深入りをしないように思える。しかし、筆者は会社員がタテマエとホンネを使い分けるこの不気味な企業社会で生きていくために、大切なエッセンスが凝縮されているエピソードではないかと考え、今回、あえて読者諸氏にお届けすることにした。もしかすると記事の内容に違和感を覚える読者もいるかもしれないが、中立的な視点を心がけて報じたいと思うので、ご一読いただきたい。
あなたの背後には
親子3人の霊が見える――。
岡安律司(仮名・38歳)は、ここ数ヵ月間、週末になると妻と一緒に神奈川県内のある場所に向かう。「祖先の供養」や「前世治療」を行う男の家が、そこにはある。
ここで「子どもが授かるように」と、夫婦で仏壇に祈るだという。2人は結婚し、6年が過ぎた。だが子どもがいない。不妊治療を行ったが、効果がない。
男は、仏壇の前で正座をする2人の前でお経をあげる。30分ほどの間、夫婦は生まれてくる子を想像することを求められる。この想念が、子どもを誕生させるのだという。
30分ほど後、男は大きな声を出す。「カーッ」と奇妙な声らしい。口の前に右手をあてがい、2本の指を立てる。そして、「ふっー」と声を出す。そのとき、2本の指を左右に振る。
指の間から届く息を岡安が感じると、体から何かが抜け出る気がして、涙がしばらくの間止まらないのだという。帰りの車に乗るとき、妻の前で子どものように泣きじゃくるようだ。妻も泣き叫ぶ。そのとき車の外は嵐のようになり、1メートル前すら見えなくなるほどになるという。