デジタル化の波に飲まれた
アナログ企業の決断

 前回まで、「企業の方向づけ」に関して説明してきました。方向づけとは「戦略」ですが、もう少し具体的に言うと「何をやるか、何をやめるか」を決断することです。会社にとってこの「方向づけ」を誤ることは致命傷になりかねません。

小宮一慶 小宮コンサルタンツ代表

 経営者にとって最も大切な「経営という仕事」ですが、今回は、社会の変化を見据えて「何をやるか、やめるか」の決断で大成功した会社の事例をご説明しましょう。

 その会社は、京都に本社があるプリントパックという印刷会社です。同社は、印刷不況と言われて久しいなか、この十数年間で売り上げをなんと50倍も伸ばしました。海外での展開もしていません。なぜ、こんなに売り上げ増が可能だったのでしょうか。

 プリントパックは、もともとは、製版事業とわずかに印刷事業を行っていました。

 しかし、製版事業は、十数年以上前から、パソコンの普及によりデジタルデータ化が急速に進みました。プロの職工さんに頼らずとも、パソコン1台と然るべきソフトがあれば、カタログや冊子、チラシ、ハガキ、名刺などの製版が、個人でも、比較的簡単にできるようになったのです。このままでは、アナログデータの製版事業が衰退するのは目に見えています。

 そこでプリントパックはどうしたかというと、思い切って製版事業を他社に譲り、印刷事業1本で勝負することにしたのです。

 お客さまは、デジタルデータは自力で作ることはできても、印刷に関しては、特にそれが大量なら、専用の機械がなければできませんから、どこかに頼むことになります。同社はここに目をつけ、お客さまに、デジタルデータをインターネット経由で入稿してもらい、そのデータをきれいに安く印刷してお届けするというサービスを開始したのです。

 製版事業をやめる。これは、「言うは易し行うは難し」です。それまで、同社の主力だった事業をやめてしまうのですから、相当な覚悟と勇気を伴います。社内にももちろん反対はあります。