「売り方」にこだわっていた経営者が「価値を売る」ことに気付いた時、「モノの見方」が変わる。そこから企業が変わり始める――。行き詰まりを感じる経営者の視点が変わるきっかけ、企業再生のきっかけとなる「スイッチ」の見つけ方を、数々の企業再生を手がけた経営コンサルティングのプロフェッショナル集団・カート・サーモンの河合拓氏が事例をもとに解説する。
昨今、医療機関などで繰り返される医療ミスによる事故に対して我々はひどく敏感だが、企業変革時の戦略立案ミスについては放置されていることが多い。
「頭が痛い」と訴える患者に対しては、その頭痛が「風邪」からくるのか、「二日酔い」からくるのか、はたまた「悪性の腫瘍」からか。病院では問診を行い、「現象」に対して、「原因」を特定するように、企業の問題解決も、まずその企業が持つ現象的課題の原因がどこにあるのか特定せねばならないだろう。昔から言われていることではあるが、企業の問題解決の現場では、今でもこうした「問題の原因」と「解決案たる処方箋」のミスマッチが頻繁に起きているのが私の実感だ。
特に、私が手がける小売業界の改革は専門性が高く、独特の視点、切り口が必要になるため、このミスマッチが起きることが多い。
自社が競争するべき相手は
「同業種」か「異業種」か?
例えば、世の中が不況になると消費者は財布のひもを締めるが、真っ先にやり玉にあげられる(消費を絞る)のが「嗜好品」である。消費者は、まず嗜好品の購買を我慢することで生活防衛をする。一方、「必需品」は、不況になれば安価品が市場に出回るが、その消費量そのものが減少するということはあまりない。
不況時にそれぞれの競争環境はどのようになるか。
カート・サーモン・ユーエスインク日本支社パートナー/繊維商社にて10年の海外営業の後、経営コンサルタントに転身。ターンアラウンドマネージャ(企業・事業再生)として数多くのアパレル、流通チェーン、百貨店などにハンズオンで入り込み、経営立て直し、新規事業立ち上げを成功させた。著書『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)は中国語に翻訳され台湾でも発売されている。
「嗜好品」の動きは複雑だ。例えば、ある人は「服を買うのを我慢してカフェに行こう」と感じるかもしれないし、ある人は「化粧品にお金をかけるのをやめて、エステに行こう」と思う。このように、嗜好品の競争は、アパレル業界や化粧品業界、エステ業界や飲食産業など異業種が同一人物の財布の中身を奪い合う。いわば、嗜好品は異業種競争が繰り広げられることになる。
逆にいえば、嗜好品業界の戦略は、同業界の競争相手を意識することなく、ひたすら消費者にとって価値の高いものを世に出せば、他業界から消費を奪うため、競争相手と無駄な競争をせず、業界全体が下がってもアップルやユニクロのように個別の企業が一人勝ちするのだ。これを、我々は「バリューベース戦略」と呼ぶ。バリューベース戦略では、競争優位性よりも「顧客が感じる価値の大きさ」が重要となる。
これに対して「必需品」は違う動きをする。例えば、「水」を飲む代わりに「米」を食べる、ということは起きないため、常に競争は同一商品間、同一業界で発生する。従って、その戦略は同業界の競争相手よりも商品以外のところで頭一つ優位に立つ必要があることになる。
必需品は、商品やサービスの価値はそれほど変わらないコモディティ商品が多いため、競争優位性は「不良品が少ない」とか「配送が早い」、あるいは「売価が安い」というQCD (Quality, Delivery, Costの略、品質、配送、コストの総称)の戦いとなる。これを、我々は「オペレーションベース戦略」と呼ぶ。オペレーションベース戦略では、競争相手よりも「いかにオペレーションが優れているか」が重要となる。