東日本大震災をきっかけに生まれた「石巻工房」という家具メーカーがある。街が瓦礫の山と化した2011年、宮城県石巻市で「自分たちの手で作り、復興する」というDIY精神を掲げて産声を上げた。その後も事業を続け、今では高い品質の家具が国内外で人気を博している。石巻発・ベンチャー企業の成長ストーリーを追った。

復旧が遅々として進まない石巻で
DIY施設をスタート

「え、コレ震災と関係あるの?」東日本大震災の発生から4年あまり。東北復興の話題がメディアからどんどん消え去る中、DIYメーカー「石巻工房」の家具を見せると、大体の人が驚いてこう聞く。

素人が集結して誕生した「石巻工房」。世界的家具デザイナーたちの協力もあり、今では海外での販売も好調な成長企業となっている

 ツーバイフォーの木材を使い、シンプルだが洗練された愛らしいデザイン。震災を機に誕生した石巻工房の家具は、その品質と背景にあるストーリーが多くの人の心をつかみ、国内外で売り上げを伸ばしている。

 地域発ベンチャー企業としても注目を集める石巻工房だが、ここに至るまでには数々のドラマがあった。

 2011年3月11日。宮城県石巻市は中心部を除くほぼ全域を津波に襲われ、被災地の中でも「最悪」といわれる被害を受けた。やがて、瓦礫が広がる街に全国からボランティアが集まって来る。東京都文京区に事務所を構える建築家・芦沢啓治氏もその1人だ。

石巻工房のコンセプトを考案した、建築家の芦沢氏。震災後は芦沢啓治建築設計事務所代表としての業務の傍ら、石巻に通う日々が続いた

 芦沢氏は、震災の5ヵ月前に石巻の老舗料理店・松竹の改築に携わったばかりだった。被害に遭ったクライアントのことが気に掛かり、4月には現地を訪れて店舗の修復を手伝うようになる。

 周囲を見渡すと、大工が足りず建物の復旧は遅々として進んでいない。建築家として何ができるかを考えていた芦沢氏は、ある店主を見てひらめきを得た。その人は自分で店を修理し、いち早く商売を再開して客を集めていたのだ。

「DIY(=Do It Yourself)の原点を見た思いでした。支援を待つのではなく、住民自身の手で修理をして、少しでも早く仕事や生活を再開させることが街の復興につながると気がつきました。そのためには、公共の場が必要です。そこで、仲間うちで補修道具や材料を集めて提供し、住民のためのものづくりの施設『石巻工房』をスタートさせました」(芦沢氏)