いよいよ今国会最大の焦点である安保法制の審議が始まった。具体的には関連法10本を束ねた「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法」の2本立て。集団的自衛権行使を可能にするなど、戦後続いていきた安保政策の大転換だが、法案はいかにも分かりづらい。
元防衛官僚で、安保政策の専門家である柳澤協二氏に、安保法制で何が変わるのか、そしてその問題点は何かを聞いた。柳澤氏は4月27日に合意したガイドライン(日米防衛協力のための指針)を読めば、その目指すところが分かるという。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集委員 原 英次郎)
アメリカとの公約が先行
自衛隊・米軍の平時からの一体化が進む
――まずガイドラインと安保法制の、特徴と評価を聞かせてください。
大変驚きました。
手法そのものが、先にアメリカで事実上、公約し、夏までに法案を通すような話までしてしまうというものでした。
そうした政治的手法もさりながら、やはり内容的にアメリカとの公約先行型になっている。どこでそう思ったかと言えば、ガイドラインには「平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置し、運用面での調整を強化し、共同計画の策定を強化する」と、はっきり書かれているからです。
1946年生まれ。東京大学法学部卒業後、防衛庁(現・防衛省)入庁。防衛審議官、運用局長、防衛庁長官官房長、防衛研究所所長などを経て、2004年~09年、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)。小泉・安倍(第1次)・福田・麻生政権で自衛隊イラク派遣などに関わる。著書に『亡国の安保政策』、『検証 官邸のイラク戦争』、『亡国の集団的自衛権』など。
もともと米軍と自衛隊、特に海上自衛隊は、一体化が進んできています。共通のデータリンクに入っていますしね。それはしかし、建前上は日本有事を前提にして、同じネットワークの中に入り、共同作戦ができるようにしていたわけです。だから実は、運用面ではほぼ完全にアメリカ軍との一体化はできているのですが、それに加えて今回は、平時からの調整メカニズム=政策面での一体化がはっきり書かれたということですね。
特に注目すべきは、共同計画を策定すると書いてあることです。いままでは共同計画というのは、検討の対象であって策定ではありませんでした。実際にいろいろな事態が起きて、そこでの基本計画を作り、それが日本側の閣議決定・オーソライズ(承認)の対象とされてきた。
今回は閣議決定の対象にはならないが、2+2(日米の外務大臣と防衛大臣)で事実上オーソライズするような書きぶりになっている。そうすると、前回までのガイドラインは、最初のものが日本有事を、1997年のものは朝鮮半島有事を対象にと、事態が特定されていたんですけれども、これからは世界のあらゆる事態が対象になる。