韓国の農村で、79歳になる農夫と共に、30年間働き続けてきた牛。だがある日、農夫は獣医から「この牛は、今年の冬を越すことができないだろう」と告げられる……。
チェじいさんと老牛との日常を淡々と綴ったこのドキュメンタリー映画『牛の鈴音』は、韓国で大ヒット。公開37日目に動員100万人を突破したと思いきや、その9日後には早くも200万人突破。「牛の鈴症候群」と呼ばれる社会現象まで巻き起こした。
一体何が、観客たちの心をそれほどまでにとらえたのか? 来日した敏腕プロデューサーのコー・ヨンジェに、ヒットの理由、そして韓国映画の現状について語ってもらった。
──韓国では、ドキュメンタリー映画は元々人気があったのですか?
コー・ヨンジェ……プロデューサー/1969年生まれ。プロデュースした作品のすべてが、国内外の映画祭で高く評価されている、韓国インディペンデント映画界の風雲児。主なプロデュース作品は、札幌市の朝鮮学校に通う子どもたちの様子をとらえたドキュメンタリー『ウリハッキョ』(06年)、釜山国際映画祭New Currents賞受賞の劇映画『Life Track(軌道)』(07年)など。 |
ヨンジェ:いいえ(笑)。この映画のおかげで、今では皆、ドキュメンタリー映画を劇場で見ることに違和感を感じなくなったようです。でも以前は、「なぜドキュメンタリーを(お金を払ってまで)劇場で見なければならないのか」という声もありました。
──本作は、そんな不利な条件のドキュメンタリー映画だったわけですが、こんなにヒットすると予想していましたか?
ヨンジェ:最初に掲げていた目標は20万人でした。以前、私がプロデュースした『ウリハッキョ(英題:Our School)』(06年)というドキュメンタリーの動員数が12万人だったので、それを超えたいとは思っていました。
この映画は釜山国際映画祭でプレミア上映され最優秀ドキュメンタリー賞も受賞したのですが、若者から上の世代の人々まで、様々な年齢の人々が見に来てくれたんです。それを見て私は「行ける!」と思ったんです。