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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

バラック・オバマを大統領に選んだアメリカ民主主義の真骨頂

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第12回】 2008年11月7日
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 選挙日の11月4日には午前4時から投票所に並ぶ人の列ができたと報じている。今回の選挙の盛り上がりは異常である。何故か。ひとつにはオバマ候補が草の根の運動を展開したことで、国民の多くが「国民主権」を実感できることに興奮しているからではないだろうか。自分たちが献金し、ボランティアとなって動き、周りの人に投票を促し、多くの人が投票所に行く。選挙という民主主義のもっとも大事なプロセスに自分が参加していることを実感できたことが、盛り上がりの最大の原因であるように思う。

黒人大統領の誕生は
米国民の予想を超えていた

 今回のオバマ氏の当選は、従来アメリカ政治の常識と考えられてきたことを、あえて実践しなかったことにある。何の地盤も知名度も「しがらみ」もないオバマ氏はそうせざると得なかったのだ。選挙戦の初盤では、民主党の対立候補ヒラリー・クリントン上院議員には知名度、人脈、選挙資金において完全に差をつけられていた。だが、選挙戦が長期化するにつれて選挙資金が底をつきヒラリー・クリントン上院議員は戦えなくなった。

 共和党のマケイン候補との戦いはオバマ候補には容易だった。初盤からリードし、終盤では突き放した。そもそもマケイン候補とは知力と選挙戦術において大きな差があった。マケイン候補がサラ・ペイリン女史を副大統領に指名したときには、一時的に差をつめられたこともあったが、終始かなりの格差でリードを保った。

 オバマ大統領の出現は多くのアメリカ国民にとっても、予想の範囲を超えていたように思う。筆者が今年の初めに親しいアメリカ人の友人と夕食をともにし、オバマ氏のことが話題になったときに、みんな懐疑的な見方をしていた。白人は事前の世論調査では黒人候補者に投票すると言っていながら、実際に投票所に行くと白人候補者に投票するのを何度も見ているからだ。

 ある友人は「もしアメリカが、オバマ候補を大統領に選出したら、世界はアメリカを偉大な国家と見なすだろう」と語った。その友人は「もし」を何回となく繰り返した。それから10ヵ月経った。11月4日に「もし」はなくなった。無名の黒人候補者が「本当に」大統領になった。アメリカの政治プロセスがいかに柔軟であるかを世界に示した。

 この国は時代のニーズに応えて「最適な人材」を選出できる民主プロセスを持っている。この国は「しがらみ」を越えて、時代の変化に対応できる柔軟な能力を持っている。まずは、従来の常識を覆して勝利を手中に収めたオバマ新大統領に最大の賛辞を送りたい。そして何よりも、オバマ候補を大統領に選んだアメリカ国民の正直な選択に敬意を表したい。

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安藤茂彌
[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ

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シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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