お金ってなんでしょうか? 大人でもその実体をつかんでいる人は多くありません。ほとんどの人がお金を稼ぐために働き、お金を貯めるために生き、そして、お金を残して死んでいく――。人生をこんなにも左右する「お金」って、いったいなんなのでしょうか?そこで今回、ふつう学校では教えてもらえない「お金」の授業を開講することにしました。人気投資マンガ「インベスターZ」とのコラボ企画。最高の講師陣をお迎えして、お金の授業がいま始まります!!
取材・構成:岡本俊浩/写真:加瀬健太郎/協力:柿内芳文(コルク)

1時間目は藤野英人さん。投資信託の会社の経営者であり、星海社新書『投資家が「お金」よりも大切にしていること』はロングセラーとなっています。授業は「仕事をしたくない日本人」「不況の原因は大企業がアホだったから」「日本人ほど現金が好きな民族はいない」など、刺激的なフレーズがバンバン飛び出すエキサイティングなものとなりました。

話題の投資マンガ「インベスターZ」とは
中学生が株式投資!? 世界一タメになるお金漫画、誕生! 創立130年の超進学校・道塾学園にトップ合格した財前孝史。入学式翌日に明かされる学園の秘密、それは各学年成績1位のみが参加する「投資部」が存在することだった。少年よ、学び儲けよ! そして大金を抱け!! 投資部・財前の「株儲け」がいま、幕を開ける。

 

インベスターZ (1) フルカラーを読む

 

給料は「がまん料」なのか?

<先生の紹介>藤野 英人
(ふじの・ひでと)/1966年生まれ。レオス・キャピタルワークス取締役・CIO(最高運用責任者)。早稲田大学卒業後、野村証券、JPモルガン、ゴールドマン・サックス系の資産運用会社を経て、現職。成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、高いパフォーマンスを上げ続けている。明治大学商学部では講師も務める。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』『儲かる会社、つぶれる会社の法則』(ともにダイヤモンド社)がある。

 みなさん、こんにちは。藤野英人です。

「お金」。この単語を聞いて、あなたは何をイメージしますか?

 いま、日本に漂っているムードを見る限り、いいイメージを持つ人は決して多くないのではないでしょうか。たとえば、「汚い」「つらい」であるとか。こういう連想をする人もいるでしょう。

 なぜ、こんなことが起きるのか。

 ぼくはね、みんなが「働く」ことにマイナスのイメージを持っているからじゃないかと思っているんです。

 それをよく表わしているのが、人気マンガの『闇金ウシジマくん』に出てくるワンシーンで、いまどきの労働の実感を捉えていると、いっとき話題になりました。

 どういうシーンかというと、若いサラリーマンが大都会のド真ん中を車で走っています。仕事は営業職。顔つきは焦燥しきっている。脳裏に、こんなモノローグが響きます。

 “俺の人生はいったいなんだろう?/病院に行って、医療機器を必死に売ってる、しがないサラリーマン/俺自身、会社に大切な時間を売っている/毎日悩んで迷って、少しづつ磨り減って、もう二度とない、かけがえのない人生を売っている。”

 むろん、実社会でこういった焦燥感を抱えて働いている人は大勢いるでしょう。それは否定しません。
 ただ、気にかかるのは「働くこと」が即、「悪」であるという思いこみが社会全体に広がっているように感じられて、これでいいんだろうかと感じます。

 ぼくはファンドマネージャーをやるかたわら、明治大学で学生を教えています。授業の内容は起業家がいかにして資金調達するかをテーマにした「ベンチャーファイナンス」なんですが、学生を見ていると「労働は悪」である認識が霧のように立ちこめているのを感じます。

 授業では、様々な起業家をゲストスピーカーとして招いています。レポートを書かせてみると、なぜ労働を「悪」と考えるのか。その論理が見えてきました。ある学生はこう書いています。

「授業で出会った人を見ていると、みんな楽しそうに働いていた。自分のなかで『働く』というイメージは、あまり楽しくはないが、お金のためにしかたなく行うことだと思っていたが、この授業で話してくれた人は、誰一人としてお金のためだけに働いてはいなかった。

 彼らはみんな、大きな夢や社会を少しでもより良くするために働いているように思った。彼らはみんな輝いているように見えて、自分のなかでの働くイメージが、これまでのつらくてきついことから自分の夢を叶えるための素晴らしいものに変わった。」

 こう書いた彼は、利益を上げることは、周囲から「搾取する」ことであると考えていたようなんです。

 企業は、従業員、仕入れ先、そしてお客さまから搾取をし、利益を上げていると。本当ならトントンでもいいはずなのに、それ以上に利益を上げているんだと。
 そうでないと、企業も回っていかないのはなんとなくわかる。自分もお金をもらわなくちゃいけないから、結局は企業に就職せざるを得ない。つまり、これら搾取プログラムに加担するのを覚悟のうえで、就職するというんですね。

 給料は「がまん料」。納得のいかないことがあっても、ともかく我慢。上司から降ってくるタスクもしょうがなくこなした末に、給料が降ってくる。こういう認識だったんです。

「とにかく仕事をしたくない」人が50%

 また、ある進学塾でアルバイトをしている人の話なんですが、彼は、

「正社員の先生たちがかわいそうだ」

 と言うんです。先生たちは新規の生徒獲得のためにビラ配りをしている。さらに、通っている生徒のフォローをするために親御さんに電話もかけている——。

「授業とは関係ない仕事を先生らに強いる会社に、憤りを禁じ得ない!」

 こう言うんですね。

 一見もっともらしく聞こえる。けれども、塾経営の観点からみれば、ビラ配りも電話も必要なことなんですよ。生徒が来てくれなきゃ、経営はやっていけないんだから。

 ぼくらの業界でも、問題を感じることはあります。

 当社の投資信託を、銀行や証券会社で販売して頂いています。彼らとコミュニケーションをとっていると、4つのタイプがいることが見えます。

 タイプ1は、「お客さまをきちんと見ていて、どう仕事を進めたら、お客さまの資産を増やせるか」を考えている人。本当の意味で商売をやっていますし、ぼくらとしては一番ウェルカムなタイプ。でも、これは全体の5%にしか過ぎません。

 タイプ2は、「最優先がお客さまではなく、まずは自分の会社。どうやったら自分の会社の収益になるか」を考えている人。20%程度いますね。……悪くはないんですよ。なぜかというと、自分の銀行が儲かることと、お客さまが儲かることはイコールですから。タイプ1とまったく別、というわけでもないんです。

 一番の多数派がタイプ3。これは、身もフタもない言い方なんですが……「とにかく仕事をしたくない人」。これが50%います。お客さまの利益は考えないし、自分の会社の利益も考えない。ともかく、いまある仕事を増やさないこと「だけ」が行動原理。ぼくらが投資信託に組み入れている企業は他の投資信託が組み入れていない企業が多いんです。つまり、「これから」の潜在能力に賭けている企業を投資信託の商品に組み込んでいますから、業界的には「なじみ」がない企業だったりもします。商品として扱おうとすると、たくさん資料を準備しなきゃならない。上司への説明も必要になる。でも、これだとお客さまと自分の会社の可能性を自ら閉ざしちゃうんです。

 タイプ4はさらに困りもので、「自分を接待してくれたら、動きますよ」。こういう思考回路の人です。要は、「自己利益だけが目的」の人で、これが残念なことに15%ぐらい、いるんです。

続きは 『インベスターZ公式副読本 16歳のお金の教科書』(ダイヤモンド社)をごらんください。