世界最大級の債券運用会社、PIMCOの共同CEOを務めるモハメド・エル・イーリアン氏は、世界の金融エリートたちにその名を知られる投資戦略のエキスパートである。その彼が今年五月に上梓した著書「When Markets Collide」が今回の金融危機の本質を突いているとして欧米で話題を呼んでいる。IMFの理事も務めた国際金融の泰斗に米国経済と、世界経済の現状と行方を聞いた。

ムハメド・エル・イーリアン(Mohamed El-Erian)
モハメド・エル・イーリアン PIMCO共同CEO兼共同CIO

―あなたは米国発の金融不安が世界経済を混乱に陥れることを予見していたが、これほどまでの危機に発展すると見ていたか。

 官民の別を問わず世界の金融システムにおける活動がそのインフラの能力を超え、持続不可能の域に達した――それが私からの警告だった。企業の破綻を含む市場での事故や政策の失敗は、それ自体は驚くに値しない。

 ただ、何が意外だったかといえば、決済システムに広がった被害の規模だ。リーマン・ブラザーズの破綻――その決断そのものよりも決断の仕方――に伴うコラテラルダメージ(付随的被害)は想定以上に大きかったと認めざるを得ない。

―米国の経済成長率は第3四半期(7~9月)、0.3%のマイナスだった(速報値)。今後さらに悪くなるのか。

 率直に言って、米国経済はまだ底を打っていない。民間セクターの需要のすべての要素がいまだかなりの(下振れ)圧力にさらされており、特に、エコノミストたちが言うところの、収入、資産、信用のトリプルマイナス効果に見舞われている消費の行方は厳しい。

 所得は11ヵ月に及ぶ雇用減少によって蝕まれている。年金の運用悪化は、特に退職前の人びとの消費を深く削り取るだろう。住宅価格上昇分を現金化する道が閉ざされた今、消費者が信用を得ることはますます難しくなっている。

―V字回復は難しいということか。

 米国について言えば、回復は底の線が伸びきったU字型になる可能性が極めて高い。