総工費の急変、財源をめぐる確執、関係者による責任転嫁……。スポーツの祭典にはおよそ似つかわしくないぶざまな悲喜劇はなぜ起きたのか。新たな計画で笑うのは、一体誰だろうか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)

「あれは政治的にヤバい案件だ。手を出さない方がいい」──。建設業界ではプロジェクトが動きだして以降、このようにささやかれていたのが、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる国立競技場の建て替えだ。当時は一部の関係者間での話にすぎなかったが、その予感は的中した。

 当初計画では1300億円とされた総工費が1625億円へ、そして今年6月には2520億円へと“膨張”。その要因をめぐって、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)や、それを所管する文部科学省、五輪組織委員会会長の森喜朗元首相らによる、スポーツマンシップから程遠い責任の擦り付け合いが連日、テレビのワイドショーで大きく取り上げられ、国民的な「ヤバい案件」となった。

 さらに、安保法案の採決で支持率の急落に焦った安倍晋三首相が今月17日、「ゼロベースで計画を見直す」と表明し、迷走を続けたプロジェクトが振り出しに戻った。

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新国立競技場 国際デザイン・コンクール最優秀賞発表時(2012年11月) 写真提供:日本スポーツ振興センター

 まず、総工費をめぐる紆余曲折を振り返ってみよう。国際コンペを行い、英国人建築家のザハ・ハディド氏の当初案(写真(1))に決まったのは、五輪招致決定前の12年11月のこと。総工費の条件は1300億円だった。

 ところが発注者のJSCが精査したところ、キールアーチ(屋根に縦に渡す2本の巨大な梁)の構造や、開閉式の屋根が複雑なことから、総工費は3000億円に上ることが13年10月に判明、金額の暴騰に対し批判が殺到した。

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実施設計段階(2015年7月) 写真提供:日本スポーツ振興センター

 そこで、基本計画を見直し、14年5月に最新の計画(写真(2))に近い新たな案を発表、総工費は1625億円まで引き下げられた。ところが突然、今年6月に、JSCが工費は2520億円になると表明したことで、再び非難の業火に包まれた。

 批判の矛先は、ザハ案を採用した国際コンペで審査委員長を務めた、著名建築家の安藤忠雄氏にまで及んだ。その安藤氏が表舞台に姿を現したのは、今月16日に開かれた記者会見だった。

「1300億円を大きく超えると、コンペの段階でなぜ分からなかったのか」との質問に対し、「私はこんな大きい建物、造ったことない」と開き直り、「なぜ2520億円になったのか、私も聞きたい。1人の国民として、何とかならないのかと思う」と答弁。安藤氏もまた、無責任な姿をさらけ出した。