「黙って廻り続けても
いいのでしょうか?」

 この6月に、ある大学に出かけた。

 就活の講座ではなく、学生に会社の存在理由,株式会社の構造、会社と社員の関係等といった「会社の仕組み」を説明する授業だった。今年は、解禁日が8月になったので、就活中の学生も参加していた。

 授業は、「あなたが、もし志望する会社の人事部長だったら、どんな人を採用しますか?」という課題を与えて、シートに記載するというワークから始めた。学生の関心のあることから入って、スムースに授業の展開を図るためである。

 冒頭のワークのこともあったからか、授業が終わった後に、ある学生が私のところにやってきた。

「6月になって2社から、相次いで内定をもらいました。7月中には意思をはっきり固めてほしいと言われています」

「2社のどちらかで決めるつもりなの?」と私が聞くと、

「いいえ、第一志望の会社も受けたいと思っています。ただその会社は8月から面接が始まります。内定をもらった会社には黙っていて、第一志望の会社を訪問すべきでしょうか?また正直に話した方がいいのでしょうか?」

「自分ではどう思っているの?」と尋ねてみると、

 しばらくの間、沈黙があって「まだ決めかねています」。

「そうだね。難しい問題だと思います。すでに内定が決まったことはおめでとうだが、本当の就活は今からかもしれない」

「第一志望の会社から内定を取得できるかどうかわからないので不安があります」

「これは、あなたと相手の会社との個別の問題だからノウハウだけでは解決しない。最終的には自分で決めないといけない」と話した。

会社と学生間で
多少の駆け引きが生じる

 私自身の採用責任者の時の実感では、内定の水準に達している人材かどうかの見極めをしてからがリクルートの本番という意識だった。自分の仕事は、与えられた採用の人数枠を優秀な人材で4月1日に揃えることであるからだ。

 学生の会社への志望度合いや、他の企業との競合状況も確認しながら、内定を出すかどうか、内定後のフォローをどうするかなどを判断していく。

 自ら直接得た情報と、リクルーターやそれまでに面談した社員の意見も参考にする。

 毎年、競合する企業も大体共通しているので、学生に対する話法もできてくる。A銀行なら自信はあるが、外資系のB社だと負けることが多いなどといった尺度も持っている。

 当然ながら、学生側は、来年度に働く会社を確保したいという強い気持ちがある。第一志望の会社にすんなり決まれば問題はないが、そうでなければ互いにデリケートなせめぎあいが続くことになる。会社と学生との間で多少の駆け引きが生じるわけだ。やはり内定が出てからが本番である。