「志望動機」に「自己分析」。エントリーシートと面接での自己演出……。就職活動は一昔前に比べると様変わりし、なにやらややこしく面倒になった観がある。これを採用側から見るとどうなのか。本質的には変わっていない、と筆者は言う。自社に合った人材をいかに確保するか。よりよい採用のための考察を、まず現状を分析することから始めることにしよう。
日本の新卒採用は
世界標準ではない
ある商社の人事担当者が、イタリア人のビジネスパーソンに、日本の採用のやり方を説明したところ「まだ働いてもいない学生をなぜ採用するのか。信じられない」という反応が返ってきたという。契約の観点から見れば、実際にどれくらいの業務能力があるかも分からない学生と雇用の約束(内定)を結ぶのは奇妙に思えるのだろう。
会社訪問の解禁日に、企業の玄関前で列をなす就活生の様子は、例年マスコミに取り上げられる。毎年の恒例の行事だ。私の学生時代もそうだったので、少なくても40年以上は続いている。
しかしこの採用方式は世界標準ではない。欧米の会社では、「経理課員を募集」といったように、当初から何の仕事をするのかを明確にしている。補充の要員を中途採用するのが一般的である。また人事部が一括して採用することはなく、各部門のライン長が、採用権限を持つ。そして職種別で採用された社員は、その分野のエキスパートを目指すのである。
日本の会社のように、「入社しても配属発表があるまで、どこで、どういう仕事をするかが分わからない」、「数年したら、まったく別の部署に転勤して、経験のない仕事をすることになった」などということはあまりない。
もう随分前になるが、平成のはじめに、人事部で採用のヘッドを務めたことがある。4つの大学を担当して、多くのリクルーターと一緒に採用に取り組んだ。最終の目標は、与えられた30人を超える採用枠を優秀な学生で満たすという任務である。
当時は、毎日、毎日、学生との面接を繰り返した。
その時に感じたのは、採用側と学生側とのギャップである。
実際の採用面接では、自分のウリやPRネタを必死で話す学生が多い。彼らは高い能力や資格を持った人材が採用されるのだと勘違いしている。就職活動を始める前の学生や、その親御さんから受ける質問で多いのは、「資格は持っていた方がいいのですか?」なのである。
一方で、人事担当者側は、目の前の学生の能力やスキルよりも、自分の会社にフィットした人材を求めている。このギャップは大きい。おそらく半数以上の学生は、この誤解によって、初めの時点で不合格になる。
2年ほど前まで、本の執筆のために、各社の採用担当者や学生に取材を続けていたが、このギャップについては、昔と全くと言っていいほど変わっていなかった。
たしかにリクルーターを動員していた頃に比べると、採用の時期や、やり方が大きく変わったように見える。しかし、これは、携帯電話やネットの登場によって、プロセスの前段階が変化しただけで、採用の基準や最終局面での決定方法は、違っていない。この点については、次回以降の連載の中で述べる予定である。
いずれにしても、就職なので、「職」に絡む能力を見るのが当たり前だと思われるが、そうなっていない会社が大半なのである。