老人たちが義憤に駆られて暴走する
村上龍の最新長篇小説『オールド・テロリスト』のカバーには、11人の老爺が描かれている。彼らはみんな機関銃や日本刀を手にしているが、その表情は、まるで修学旅行の記念撮影に興じる少年たちのように明るい。
しかし、彼らはタイトルどおりのテロリストである。財をなし、社会的な地位や名誉もありながら、〈腐りきった日本をいったんリセットする〉ために柔軟なネットワークを組織し、生きる力を失った若者たちを犯人に仕立ててテロを実行していく。場所はNHKの西玄関、池上商店街、新宿ミラノ……。フリージャーナリストの関口は巧妙にそれらの目撃者とされ、取材を進めるうちに彼らの背景に旧満州人脈があり、旧ドイツ軍から譲り受けたとんでもない武器まで用意されていることを知る。そして、権力も権威も知力も駆使した老人たちの緻密な暴走は、目的を達成するためにふさわしい標的に向かっていく。
日本をリセットするには、日本を焼け野原にするしかない。そう信じる老人たちの計画と手続きが、この作品には詳細に記されている。起きてしまったテロの現場の惨たらしさは、村上らしい徹底した描写でこちらに迫り、関口とともに激しい恐怖すら覚える。だから、一連の危機に巻きこまれてしまった彼の精神がボロボロになっていく過程に同調してしまい、そこでもまた強烈なリアリティーを感じて動揺してしまう。
〈年寄りは、静かに暮らし、あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ〉
私生活に何の問題も抱えていない老人たちが義憤に駆られ、粛々とテロを実践する物語。デビューから39年、村上作品には初期から日本社会への怒りがこめられてきたが、今回の『オールド・テロリスト』にいたってはそれがそのまま、老人たちの言動を通して表出していた。納得できる言説があまりに多くて私はちょっと戸惑い、なぜか何度となく、楯の会の制服姿の三島由紀夫を思いだした。
※週刊朝日 2015年8月7日号