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HP、キヤノンに続く世界のプリンターメーカートップ3の一角として、長年オフィスや家庭にブランドを浸透させてきたセイコーエプソン。同社をはじめとして、プリンターメーカーを長年支えてきたのは、「本体を安く、消耗品の(カートリッジ)インクで儲ける」という、ジレット(カミソリ製品のブランド)が導入したいわゆる「替え刃モデル」です。
しかし、2010年代に入り、エプソンはこの黄金律ともいえる成功モデルを自らの手で破壊し、従来の数倍~10倍印刷できる大容量インクタンクモデルへと舵を切りました。今回は、クレイトン・クリステンセンが提唱した「イノベーションのジレンマ」というレンズを通してエプソンの舵取りを分析します。(グロービスAI経営教育研究所所長/グロービス経営大学院教員 鈴木健一)
プリンタービジネスの黄金期を支えた
「替え刃モデル」とは?
エプソンをはじめとするプリンターメーカーが採用してきたビジネスモデルは、「替え刃モデル」として、ビジネスモデルについて書かれた本では必ずといってもいいくらい言及されるビジネスモデルです。
これは、プリンタ本体(カミソリではホルダーに相当)を低価格で販売し、購入後に顧客が継続的に購入する必要がある専用のインクカートリッジ(カミソリでは替え刃)で儲けようというもの。
例えば、トップメーカーであるHPのプリンティング部門の売り上げを2024年の年次報告書で見てみると、その約65%が消耗品からの売り上げであることがわかります。
ジレットが1903年の替え刃モデル導入以来、2005年にP&Gに買収されるまで100年近くにわたって高収益を上げてきたことからもわかるように、このビジネスモデルは極めて魅力的です。
プリンター購入は、顧客を自社製品にロックインするきっかけに過ぎません。メーカーは継続的に購入されるインクカートリッジで安定した収益、高い顧客生涯価値を見込むことができるのです。
また、市場シェアが高い企業ほどこの顧客資産の規模が大きくなるため、収益基盤は盤石になります。
このことは裏返すと、顧客基盤を持たない新規参入者にとっては大きな参入障壁となります。結果、大手5社でプリンター出荷台数の9割近いシェアを占める寡占構造となっているのです。







