ライセンス・ビジネスをグローバルに成功させたサンリオ(株)の鳩山玲人氏と、LINE(株)でグローバル・サービスを世に送り出した森川亮氏の対談が実現しました。グローバルに活躍するおふたりは、どんなスタンスで仕事に向き合っているのか?何を考えているのか?それぞれの著作『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(鳩山玲人著、幻冬舎)、『シンプルに考える』(森川亮著、ダイヤモンド社)から引用した言葉をもとに、たっぷりと語り合っていただきました。(構成:田中裕子、写真:村田康明)
自分を「部下」のようにチェックして、行動を修正する
――鳩山さんのご著書『桁外れの結果を出している人は、人が見ていないところで何をしているのか』(以下、『桁外れ』)に、こんな言葉があります。「自分の努力や時間が、本来やるべきことのために費やされているかどうかは、つねに日々の行動レベルでチェックする必要があります」。具体的にどのようにチェックされているのですか?
鳩山玲人さん(以下、鳩山) いますべき大事なことに注力するために、何にどれくらい時間をかけてどれくらいの成果が出ているのか計測しているんです。放っておくと、すぐに「重要度」と「リソースの配分」が一致しなくなっちゃうので。
森川亮さん(以下、森川) それ、僕もやっていますよ。
鳩山 あ、やっぱり! どういうふうに分析していますか?
森川 僕がチェックしているのは時間とお金と食べ物、かな。「こうすべきだったのにこうしてしまった」という理想と現実のギャップを、どう埋めていくか考えるんです。書き出すなかで、「この人と会うとムダな時間につながりやすいな」「ここに行くと変なことに巻き込まれやすいな」といったことが見えてくる。その項目を、日々の行動からなるべく排除するように意識します。
鳩山 僕も同じですね。誰と会って何をしていたのかをまず書き出したうえで、「これをすべきだったのにできなかった」という項目を洗い出す。それはリソースの配分が間違っていたということですから、翌日以降、タスクを並べるときに修正していくわけです。これらを手書きで紙に書いていきます。
森川 ほう、手書きですか。僕はエクセルを使ってます。
鳩山 もちろん、毎日ではありませんよ。定期的に行なう健康診断のようなイメージですね。大事なのは、自分の周りの人のリソースも書き出していくことです。
森川 周りの人まで?
鳩山 ええ。食品のトレーサビリティがヒントになりました。食品って、原材料は何で、そもそも誰がつくって……とトレースできますよね。そのなかで、ひとつの食品ができるまでのあいだに水をどれくらい使用しているか、Co2をどれくらい排出しているかさえも数値化できます。ネスレなんかは、カカオ採取は児童労働ではないか、加工した工場は妊婦に優しいか、といったところまできちんとトレースするそうです。
森川 へえ。知らなかった、すごいですね。
鳩山 その話を聞いたときに、自分のリソースだけでなく、自分にかかわった人のリソースも管理していかなくては、と気がついたんです。紙に図式化して、自分のタスクをこなすためにどれくらい会社のリソースを突っ込んでいるのかをトレースしたり、「あいつにムダなことをさせているな」「プロジェクトが止まっているのは、ここがボトルネックだな」と探っていったりするんです。
森川 なるほど。リソースコントロールを、個人だけでなく組織全体で行なうわけですね。
鳩山 ええ。自分のリソースは会社のものでもあるし、会社のリソースはパートナー企業のリソースでもありますから。
森川 ムダな仕事って、本当にいっぱいありますからね。僕が付き合いのある会社から依頼された案件を、社内でなんとなく「検討してください」と発する。そのことで、部下はじめ周りの人がどれくらいの影響を受けるのか考えないといけませんね。
鳩山 そうそう、僕が5分で決めた“安請け合い”で50人が5時間ずつ費やした、なんてことになりかねないんですよ。そうなると、失うのは「僕の5分」では済まない。周りの人間と会社のリソースを奪っていることになるわけです。
森川 なるほど、勉強になります。そうやって、自分を「部下」のようにチェックして、行動を修正していくのは成長するためには欠かせないことですよね。
「図々しい人」ほど成長する理由
――「成長」というキーワードにからめて、『桁外れ』で鳩山さんはこんな言葉を記されています。「遠慮したり怖じ気づいたりしない人のほうが、明らかに伸びる」。具体的にはどういうことでしょうか。
鳩山 えーっと……、どういう文脈で書いたんでしたっけ?
森川 本、ご覧になりますか?(笑)
鳩山 と、こういうとき、怖じ気づかずに「覚えていない」と言って図々しく本を開いたり質問できる人のほうが伸びる、ということです!(笑)
森川 あはは。鳩山さんはまさに「怖じ気づかない」タイプですよね。昔からですか?
鳩山 そうですね。ほら、先日道ばたで偶然出会ったときだって、お互いちょっと急いでいたんですよね。でも、チャンスを逃すまいと「森川さんにお会いしたら、こういうことをお話したい!」と思っていたことを一方的に話して、別れた。
森川 でも、あの数秒があったからこの対談が実現したようなものです。
鳩山 声をかけることで接点ができて、コミュニケーションが発生する。そこからいろいろ生まれると思うんですよね。僕、パーティや懇親会でも、とにかく会場を回って目が合った人に声をかけるんですよ。
森川 へえ。
鳩山 たとえば先日のパーティでは、ぱっと目が合って先に声をかけてもらった方が、なんと三井物産の副社長で。話を聞くうちに、三井物産に務めていた父と仕事をしたことがある、ということがわかったんです。父は僕が高校生のときに他界していますから、感慨深かったですよ。
森川 いやあ、そんなことがあるんですね。
鳩山 しかも、今度食事をする予定の、父の元上司とも同じ部署だったとか。世の中ってびっくりするくらい狭くて、縁でつながっているんだな、とあらためて感じました。だから、怖じ気づいたり萎縮したりすることなく、どんどん人と接したほうがいい。ひょんなところから縁は生まれるし、若者が食らいつけば年輩者は喜んで教えてくれるものですよね。人にしがみついて何かを得ようとする人のほうが、絶対に成長します。
森川 図々しいほうが結果を出すというのは、同意です。もちろん、失礼なことをしてはいけませんが、「相手はこう思っているかも」「忙しいかも」と空気を読む時間は、本当にムダ。そんなことを考える前には、とにかくスピーディに動くことが大切です。図々しくアプローチして断られたら、それは仕方がない。次にいけばいいんです。遠慮していると、チャンスはどんどん逃げていってしまいますから。
これからインターネット・ビジネスは、動画が主戦場になる!
鳩山 あ、図々しいと言えば、僕、今日どうしても森川さんに言いたかったことがあるんですよ!
森川 なんでしょう(笑)。
鳩山 いま、アメリカの映像関連業界の動きを見ていて確信を持っているのですが、これからは日本でも短編ドラマの波が来ます! いま、アメリカでは6分1シーンのショートドラマがウケている。遠くない将来、日本でもカジュアルなドラマが主流になるでしょうからC CHANNELでもいかがですか? ……と、とにかくそれが言いたくて(笑)。
森川 へえ、短編ドラマ、ですか?
鳩山 ええ。6分の短編ドラマ市場が、どんどん大きくなっているんです。ネットフリックスが狙っているのは、映画の代替ではなくドラマの代替。アメリカのティーンエイジャーは、もはや60分ドラマを見ないんです。「長すぎる」と言って。
森川 若者も忙しいですからね。60分の拘束って、よく考えればすごいことですし。
鳩山 ええ。それで、なんとドリームワークスのアニメーション部隊(ドリームワークスSKGより2004年に独立)までも、いまや短編ドラマを撮っているんですよ。元実写のプロフェッショナルがつくるから、低コストでも質がよくて。
森川 そうなんですか!
鳩山 「テレビ界のアカデミー賞」と呼ばれるプライムタイム・エミー賞を「ハウス・オブ・カード」というドラマが受賞したのも、潮目の変化を感じます。これ、短編ではないものの、ネットフリックスが配信しているドラマですからね。プライムタイム・エミー賞をネット発のコンテンツが受賞したのは、この作品が初です。このように、ネットで生み出された新しい動画コンテンツの存在感が、今後、どーんと出てくるでしょうね。この流れは、日本にも必ず来ますよ。
森川 なるほどなあ。ちなみに、Apple TVはどうですか? 盛り上がっていますか?
鳩山 みんな普通に使っていますよ。3歳の子どもでも使いこなしています。最近の子どもはあれで文字を覚えるみたいです。
森川 やっぱりスマートテレビの時代、来ているんですねえ。
鳩山 そうですね、明らかにシフトしています。そうそう、ネットフリックスに遊びに行ったとき、年間のコンテンツ制作費がおよそ3600億円だと耳にしたんです。日本のコンテンツ業界の制作費を全部合わせても及ばないんじゃないかな、と途方に暮れましたね。
森川 日本はお金に厳しい人が多いですから。「コンテンツに金かけるなんて、趣味じゃないんだから」って(笑)。
鳩山 そうなんですよねえ。日本はアニメーションも映画も、制作費がだいたい1本5億円、超大型作品と言ってもせいぜい30億円程度なんですよ。そうなると、グローバルレベルのコンテンツはつくれない。一桁上でものを考えないと、大きなブレイクスルーは起こせないんじゃないでしょうか。
森川 うーん。
鳩山 ……といいつつ、ひょっとしたら、日本独自の道もあるかなと思うんです。
森川 というと?
「人の動き」が映像ビジネスの盛衰を決する
鳩山 ゲームがいい例ですけど、地道につくることでイノベーションを起こせるのが日本の産業の特徴だ、という考え方がひとつ。6分ドラマがメジャーになったとき、低コストでもいいコンテンツをつくれるポテンシャルはあるでしょう。
森川 日本らしいやり方、ということですね。
鳩山 あともうひとつ、中国市場が大きい。だって、「ドラえもん」の興行収入が中国だけで120億円ですよ。いくら景気に波があると言ったって、これはバカにできません。中国市場のポテンシャルはアメリカも大注目しています。
森川 そのうち、中国でハリウッド映画をつくる時代も来るのでしょうか。
鳩山 うーん、少なくとも、いまはハリウッドに中国人がたくさん集まっていますね。
森川 俳優さんや監督さんですか?
鳩山 いやいや、プロデューサーや制作会社、あとは投資家なんかもいますね。中国って、海外の映画は年間30本ちょっとしか上映できないんですよ。そういう規制がある。ただし、中国の会社が大きく投資したり、中国のプロダクションがかかわっている場合は、中国映画と認定されるため、30本ちょっとには数えられない。だから、アメリカで「中国映画」をつくっているというわけです。
森川 ああ、ゲームもそうですよね。中国に持って行って、ちょっとだけ加工してから「中国産」としてリリースしたり。
鳩山 ハリウッドも中国市場の大きさをわかっているから、登場人物や舞台に中国を絡めてくることが増えましたしね。
森川 なるほど、たしかにそうですね。考えてみると、日本の映像クリエイターは、なかなか国を超えていかないですね。それどころか、既存の会社からも出てこない。世界で戦えるような優秀な人はたくさんいるんですけどね。その「人の動き」がどう変わっていくかが、今後の日本の映像ビジネスの行方を決めそうですね。
鳩山 そうかもしれませんね。
森川 その意味で、うれしいことがあったんです。「ZIP!」を立ち上げた日テレの同期がC CHANNELに入社してくれたんです。これから映像業界も、「人」の動きが出てくるんじゃないかと期待しています。
鳩山 おお、それは楽しみです!
<続>