杉杉集団の中核企業、寧波杉杉に総経理(社長)として出向している中分孝一は杉杉側との折衝に追われている。

 「杉杉は今、都市開発やハイテク産業、事業投資に注力しており、繊維関連での動きは鈍い」。アパレルで成長してきた杉杉は、非繊維分野の拡大を図っている真っただ中なのだ。アパレル分野への投資を拡大するよう働きかけるのが日課となっているという。

 多角化を推し進める鄭は「杉杉を日本の総合商社にメーカー機能を加えたような中国独自の商社にしたい」と熱く語る。伊藤忠と組んで、中国国内で解禁された消費者金融や、レアメタル開発に参入していく考えも明らかにした。

 アパレル分野でも、中分は総経理就任から1年で約40社もの海外ブランドと交渉。まもなく、日本とフランスのレディースブランド2社と契約がまとまるという。

意思決定遅い日本企業
オーナー企業の制御カギ

 総合商社幹部は「知見のない日本企業が単独で中国に進出すれば、80%の確率で失敗する」と断言する。そういう意味で、現地の信頼できるパートナーの存在は大きい。

 鄭は岡藤を「家族」と称し、魏は青木を「5人目の兄弟」と表現した。杉杉も頂新も伊藤忠に圧倒的な信頼を寄せていることは間違いない。ただ両社はトップによる即断即決で急成長を遂げたオーナー企業でもある。機関決定を求められる日本企業とは、意思決定のスピード差は歴然としている。

 鄭は「1つの決議が出るのに時間がかかり、スピードが足りない。もっと臨機応変に対応すべき」と注文をつける。中国市場の本当の怖さは、変化の激しさにある。意思決定の遅さは致命傷になりかねないのだ。

 商社関係者は「うちも中国の企業グループとの提携を模索したが、携帯1本で投資が決まるオーナー企業とはスピード感が違い過ぎて諦めた」と明かす。オーナー企業への出資は諸刃の剣であり、並の日本企業には手に負えない。青木も「タイミングや手法で、何度も大喧嘩した」と打ち明ける。海千山千の彼らを制御できなければ、暴走の危険も付きまとう。

 主導権を持って経営に関与できるのか。伊藤忠が存在感を発揮できなければ、中国戦略の成功はおぼつかない。(敬称略)

週刊ダイヤモンド