「トヨタ“という”会社で――」
謙遜のつもりが嫌味になる可能性も
「ご存じないかもしれませんが――」
こんな表現を使う候補者の方がいます。面接中に1回口にするくらいなら何も感じませんが、何度も使われると「この人、上から目線?」という印象を与えてしまい、悪気はなくても面接官はよい気がしません。
この発言を実際にした候補者を思い浮かべると決して尊大なタイプではなく、おそらくは口ぐせになっているのか、ていねいに話をしようとしていたのだと思います。しかし、そもそも必要な言葉ではないし、印象もよくありません。
似た表現として「トヨタ“という”会社に勤めておりまして――」「キヤノン“という”会社で営業を――」があります。誰でも知っているような会社名なのに、わざわざ前の語の内容説明を表す「という」を付ける意図がよくわかりません。本人は謙遜のつもりかもしれませんが、これもよい印象は与えません。
いずれの表現もあまり深い意図はなく使っていると思いますが、言葉やコミュニケーションに対する鈍感さが見え隠れするのが気になります。
コミュニケーションを円滑に行おうとすれば、相手によって選択すべき言葉や表現は変わります。たとえば世界的に有名な自動車メーカーと同じ社名だが、まったく縁もゆかりもない電機メーカーのトヨタ“という”社名の会社があったとします。この場合、「トヨタ“という”会社に勤めておりまして……」との表現になるのは当然で、「一般的に想起するトヨタとは違う会社」との意味がそこには込められています。
要は聞き手に配慮した表現をしているかが大切で、コミュニケーションに対して鈍感な人という印象を与える言葉づかいは避けるべきです。
優秀な専門家は
専門的な内容をわかりやすく伝える
人事の人間に対して一般的には使われていない業界用語や専門用語、果ては自社の社内用語を使って話をする転職希望者も見受けられます。
「XMP216にPAM-CRASHを載せてバッチ処理で構造解析しています」
これはクレイ社のスーパーコンピューターにPAM-CRASHという構造解析用のソフトを搭載し、オンラインではなくまとめて一括処理する方法で構造解析をしているという話で、エンジニア同士の会話ならこれでなんの問題もありません。しかし、こうした説明を門外漢の人事担当者にするのは聞き手に対する配慮がまったくないということで、かなり問題があります(古いネタで恐縮ですが)。