入山章栄氏の対談連載「日本のブルー・オーシャン企業」。第2回は「受験サプリ」事業で教育業界のブルー・オーシャンを切り開いたリクルート マーケティング パートナーズ代表取締役社長 山口文洋氏との対談後編をお届けする。山口氏が受験サプリ事業を立ち上げる中で綿密に戦略を練り上げ、ブルー・オーシャンを切り開いて来たプロセスが明らかになる。
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一流の人材が一流を呼ぶ
入山章栄(以下:入山) 受験サプリさんは月額980円で、全国の予備校で受験生を教えてきたトップクラスの講師陣の授業動画が見られるサービスですよね。ということは、予備校は完全に同業他社ですよね。一方で受験サプリさんは、コンテンツにその予備校のカリスマ講師の人たちに出てもらっているわけで、それはかなり大変なことである気がするのですが。
リクルート マーケティング パートナーズ代表取締役社長。ITベンチャー企業にてマーケティング、システム開発を経験。2006年、リクルート入社。進学事業本部で事業戦略・統括を担当したのち、メディアプロデュース統括部に異動。社内の新規事業コンテストでグランプリを獲得し、『受験サプリ』の立ち上げを手掛ける。12年に統括部長に着任し、15年より現職。
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山口文洋(以下:山口) 受験サプリを立ち上げたとき、私は予備校のカリスマ先生を誰も知りませんでした。そこで、まずFacebookで色々な人に問い合わせたんです。そうしたら名前が挙がったのが、当時静岡の予備校で教えていた肘井学先生です。 そこで肘井先生に連絡して、一回東京で話ができないかと相談したんです。後で聞いたのですが、彼はこの話が来たとき「インターネットやスマホで授業教えるなんて、教育なめるなよ」と、断るつもりで東京まで来たらしいんですが(笑)。
入山 ははは、まあ当時ならそうでしょうね(笑)。
山口 そこで、必死に口説いたんです。予備校では、優秀な先生・有名な先生ほど医学部コースや東大コースのような学力の高い層や、富裕層の人しか教えられなくなります。そこで、「教育だけが人生を変えられるチャンスですよね。その情熱を、その一部の社会の層だけに教えていていいんですか」と説得しました。
肘井先生も、「自分は情熱があるのに授業で教えられるのは多くても1教室200人だったり……」という部分に限界を感じていらっしゃったんです。結局、肘井先生はまだ受験サプリの事業化も本決まりしていないタイミングで、前の会社を辞めてこっちに来てくれたんですよ。
入山 (笑)
山口 肘井先生は英語が専門です。だから次に、数学でもすごい先生を出さなきゃいけないとなって、肘井先生と同じ予備校にいた山内恵介先生を口説きました。結果、山内先生も来てくれたんです。
さらに、日本の予備校界で「カリスマ中のカリスマ」と言われている、英語教師の関正生先生を同じような理由で口説きました。すると関先生が、「自分は日本ナンバーワンの予備校講師だと思っている。だから、受験サプリに出る自分以外の科目の講師も、全員自分と同じレベルの人にしてほしい」と言ったんですよ。そう約束するんだったら参加する、と。そこで「はい、そうします」と言ったら、関先生が、自分と同じレベルだと思っているカリスマ先生たちを、ご自身で紹介してくれたんです(笑)。
入山 「こいつらなら、俺と同格だ」ってことですね(笑)。最高に面白いですね。
山口 いま受験サプリでは、こういった先生が全部で12人います。友達関係などの紹介は一切受け付けていなくて、実力で承認されないと、受験サプリの講師にはなれません。
入山 受験サプリで授業をできることが、ステータスになるような時代になってきているんですね。
山口 そうなりつつあります。サービス開始から4年経って、去年は受験サプリの講師の先生ほとんどに参考書の執筆依頼が来ているのが、その証拠です。先生方も、今までのような特定の裕福なエリート層だけでなく、広く自分の授業を届けることができるようになり、自分の理想が叶ったみたいで、お互いWIN-WINだったなと思っています。