安倍政権は立憲主義を捨てたも同然
安全保障関連法(やっぱり「戦争法」)が成立したが、もちろんこれで終わりではない。政権交代があればこの法律は廃止されるかもしれないし、最高裁が憲法違反だと判断すれば効力を失う。事態はいつだって流動的だ。
しかし、この間に何が起きたのか、政権がどんなことをやったのかを忘れないことは大事だ。次の選挙で意思表示をするために。
そう考えると、木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』は全国民必読といってもいい本だ。この間、各メディアで引っ張りだこだった憲法学者が、安保法制にいたるプロセスのなかで発表した評論をまとめたもの。
一般向けの新聞や雑誌、ウェブマガジンなどに発表された文章ばかりで、読みやすくわかりやすい。本文の構成は主題別だが、「はしがき」には2013年8月の内閣法制局長官人事から15年7月の衆議院強行採決までのトピックが時系列で並び、各論文の要点が書かれている。時間を追ってみていくと、安倍政権が行ってきたことが憲法学から見ていかに問題であるのかがよくわかる。
じつはことの本質は集団的自衛権が良いか悪いかではない。憲法をないがしろにしてしまったことにある。憲法は行政が暴走しないように制御するストッパーだ。いくら選挙で過半数を占めても、憲法には縛られる。憲法が間違っていると政権が考えるなら、憲法を変えればいい。そのために憲法には改憲に必要な条件も書いてある。それをすっ飛ばしてことを進めたのは、憲法を踏みにじり、立憲主義を捨てたも同然だ。
安倍晋三首相は、次は改憲だと息巻いているようだが、それはどうだろう。解釈改憲による安全保障関連法が成立したことで、9条を変える必要はなくなった。政権のロジックでは当然そうなる。それとも、「自衛」のためではない戦争をやれるように憲法を変えたいと思っているのだろうか。
手口は見えた。さあ、次の選挙の準備にとりかかろう。