7月16日、衆議院本会議で安保関連法案が可決された。多くの議論を巻き起こした同法案の審議は、参議院に舞台を移して続けられる。世の憲法学者たちは、なぜ新しい安保法制を「違憲」と断じるのか。国民が抱く不安の根源はどこにあるのか。難解な憲法や集団的自衛権をメディアでわかり易く解説し、的を射た分析に定評のある気鋭の憲法学者、木村草太氏(首都大学東京 都市教養学部法学系 准教授)に、安保法制の課題と展望を詳しく聞いた。日本の安全保障体制を大きく変える安保法制について、この機に改めて知見を深めようではないか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
なぜ国民の理解が深まらないか?
参院に舞台を移した安保法制審議
――7月中旬、政府与党により、衆議院で安保関連法案が強行採決されました。同法案の審議については、大多数の憲法学者から「違憲」との声が寄せられ、審議の進め方に対しても野党から批判が噴出しました。世論調査を見ても、多くの国民が不安を抱えていることがわかります。一連の安保法制議論をどのように評価していますか。
今回の安保法制に関する国会審議には、非常に多岐にわたる論点が含まれていますが、その全てが憲法違反で政策的におかしいというものではありません。政府与党が集団的自衛権に関わるものとそうでないものを合わせて一括審議してしまったため、国民に論点がわかりづらく、理解が深まりにくかったと思います。
とりわけ集団的自衛権については、政府与党と彼らを応援する有識者、個人のブロガーなどの議論がバラバラで、賛成派の間でも「何のために安保法案を成立させるのか」という考えが統一できていませんでした。そのため、本来なら国民の理解を得られたであろう議題についても反発が強まりました。
安保法制を巡る状況は、極めて混乱した状態にあるという印象です。
――確かに、国会で行われた議論は混沌としてわかりづらかったです。国民が最も危惧しているのは、日本と外国との戦争に結び付く「武力行使」という概念をどう捉えるかでしょう。日本が「武力行使」をできるかどうかは、これまでどのように解釈されており、諸外国と比べてどう違ったのでしょうか。
大前提として、現在の国際法では、国連憲章第2条4項に「武力不行使原則」が謳われているため、原則として武力行使自体が違法とされています。例外として武力行使ができるケースは、国連憲章上3つしかありません。1つは、安保理決議に基づく国連の軍事活動。たとえば、1991年の湾岸戦争時に侵略国イラクに対して武力行使が行われた際には、この枠組みが使われています。
2つめが個別的自衛権で、外国から攻撃を受けた被害国が自ら反撃するための権利。そして3つめが集団的自衛権で、被害国の要請を受けて第三国がその国の自衛を手伝う権利です。個別的自衛権と集団的自衛権は各国が独自の判断で行使できます。