この曲には、イントロがありません。いきなり主旋律の一番美味しいメロディーで始まります。抑制の効いた秘めた叙情をサンタナが自然なディストーションのギターサウンドで奏でます。実は、人類の歴史と共に在る音楽の最高の楽器は、何はさておき、声です。変幻自在で言葉も伝える歌声に勝るものはありません。だからと言って人間の心の動きを全て言葉で表せるものでもありません。サンタナのギターは、そんな言葉にならない心の微妙な揺らぎに訴えかけます。しかも哀愁の響きを宿す旋律は、キリスト教会で歌い継がれてきた賛美歌が内包するドリアン旋法に依拠しています。初めて聴くのに、懐かしい感じがする秘密がここにあります。

 “君に捧げるサンバ”は、初期のサンタナの定番でした。日本公演の実況録音盤「ロータスの伝説」にも収録されています。ライブでは8分を超える長尺。スタジオ盤より即興演奏が繰り広げられます。途中、有名なジョージ・ベンソンの “ブリージン”のメロディーも登場。自由な展開は本物のロックの醍醐味です。

◆キース・ジャレット“ペイント・マイ・ハート・レッド”

 ジャズは夜の音楽です。20世紀初頭に米国南部ニューオリンズでジャズが誕生した瞬間から、ジャズには夜が似合っていました。そこには、悲しみ満ちた来歴があったからです。ルイ・アームストロングを持ち出すまでもなく、ジャズは単に悲哀に耽溺するだけの音楽ではありませんでした。悲しみを乗り越える逞しい陽気さも兼ね備えていましたし、他の音楽の栄養分をがっつりと吸収して強靭な音楽へと成長して行きました。

 キース・ジャレットは、15歳までクラシックピアノを学び神童とも称されましたが、家庭の事情でその道を断念。夜の酒場のピアノ弾きとして日銭を稼ぐ中でジャズやブルースと出合います。

 キース・ジャレットの音楽は白く洗練されています。それでも、核にあるのは紛れも無くジャズです。虚飾を剥いだ即興に宿る真実の響きを求めています。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズでプロデビューを果たし、その後チャールス・ロイド四重奏団を経て、マイルス・デイビスの下で徹底的に鍛えられます。マイルスの下を辞し、独立を果たすとトリオ、ソロ、管弦楽との競演等、様々なフォーマットでキース流ジャズに取り組み、遂にキース独自の表現領域に到達します。それが「ケルン・コンサート」です。ピアノソロの即興演奏がそのまま2枚組みのアルバムとなりました。この後、現代ジャズの最高峰としての評価を固め何枚もの傑作を発表します。

 ところが、1996年、イタリアでの公演中、重度の疲労状態で演奏を続けられなくなりました。慢性疲労症候群でした。闘病の末、99年に復活。そして2005年9月26日、キースはピアノソロでカーネーギー・ホールに登場します。この夜の模様を拍手も一切カットすることなく完全に収録したのが実況録音盤「カーネギー・ホール・コンサート」(写真)です。前半は、全10部から成る即興演奏。後半は、“マイ・ソング”をはじめとした代表的な5曲です。ここには、様々に意匠を変えるピアニズムが溢れています。ピアノでしか表現できない何かが在ります。