巨大企業フォルクスワーゲンのうそを暴いたのは、米国の環境NPOのICCT(国際クリーン交通委員会)なる組織だった。ICCTの創設メンバーであり、世界の自動車規制作りにも参画している、マイケル P.ウォルシュ・ICCT特別アドバイザーを直撃し、不正発覚の経緯や、今回の問題が自動車業界に与えるインパクトについて聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)
──ICCT(国際クリーン交通委員会)が独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の不正を暴く“張本人”になりました。
仮にICCTがこの問題を暴露していなかったならば、EPA(米環境保護局。環境政策を所管)はさまつなこととして片付けていたかもしれません。というのも、米国市場に占めるディーゼル車のシェアはせいぜい3%程度にすぎず、政府機関の財源には限りがありますから。
私はICCTの創設メンバーの一人。今回、後輩のエンジニアたちが成し遂げてくれたことに、非常に誇りを持っています。
──ICCTが米ウェストバージニア大学へ委託した試験により、不正が明らかになりました。その経緯について振り返ってください。
わかりました。とても魅力的なお話(Fascinating Story)なんです(苦笑)。
われわれは、初めから不正を疑っていたわけではありません。ただし、すでに欧州では「ディーゼル車の性能があまり良くない」「排ガスに含まれるNOx(窒素酸化物。大気汚染の原因となる)の量が多いのではないか」と指摘されていました。下図のように、ガソリン車は欧州の基準値をクリアしているのに、ディーゼル車は大幅に未達でした。そこで、本来、ディーゼル車はもっとクリーンな存在のはず、という仮説を米国で証明しようとしたのです。
──しかし、結果は正反対でした。
だから、とても驚いたわけです。試験は、欧州のディーゼル車3モデル──VWの「ジェッタ」「パサート」、独BMWの「X5」──を対象にカリフォルニア州で行われました(下図参照)。
従来の公式試験(路面の代わりに、ダイナモメーターを連結したローラーに駆動輪を載せて行う室内試験)だけではなく、高速道路や市街地など路面走行状態で測定するRDE(リアル・ドライビング・エミッション)という路上試験も導入されました。
結果は対照的でした。BMW車はほぼ基準値をクリアし、VWの2車種については路上試験の結果が最悪となりました(NOxの量が、ジェッタで基準値の最大35倍、パサートで同20倍)。