中3で起業し、現在高校3年生の椎木里佳さん。「女子高校生社長」として知られています。彼女のパパは「鷹の爪」で有名なコンテンツ会社「ディー・エル・イー」の椎木隆太社長。起業とはなにか? 会社とはなにか? 働くとはなにか? 女子高生の素直な疑問から、その本質が見えてきます。

 初回は椎木里佳さんが起業にいたったきっかけを語ります。

(取材・構成:佐藤智、竹村俊介、撮影:宇佐見利明)

「女子高生社長」椎木里佳さん(左)と、上場企業社長でパパの椎木隆太さん(右)

「男の子をたらしてて、それが起業のきっかけでもあるんだよね」

パパ 「起業する」という選択肢があるよ、ってアドバイスしたの、いつだったっけ?

里佳 中一のとき。

 そんとき私、「映画を撮りたい」とか、「芸能事務所を立ち上げたい」とか、「アプリを作りたい」とか、やりたいことがいっぱいあった。で、それをひとつひとつやっていたら、命がいくつあっても足りないじゃん。それでパパに相談したんだよ。

パパ いろいろやりたいことがあったんだよね。

椎木里佳
[株式会社AMF代表取締役]
1997年生まれ。現役の高校3年生で、実業家。「女子高生社長」として知られ、都内の高校に通いながら、六本木ヒルズに事務所を置く株式会社「AMF」を経営。小学校のときにホリエモンの活躍を見て、社長業に興味を持つ。中学3年生のときに起業。現在は、学業のかたわら、スマートフォン向けアプリの開発や各種イベント企画プロデュースなどの事業活動を展開している。父は「鷹の爪」で有名なDLEの社長、椎木隆太氏。

里佳 そうそう。で、それが全部できるものがあると言われて。それが「起業」だったの。

パパ 経営者になれば、映画も撮れるし、芸能事務所もできるし、アプリだってつくれるからね。

里佳 はじめて「起業」っていう文字を聞いたときに、ドカーンって雷が落ちた感じがして。「これだ!」って、瞬間的に思った。

パパ そんなに衝撃的だったんだ?

里佳 そう。で、「どうすればできるの?」って聞いたら、「それは、自分で調べてみたら?」って言われて。

パパ 答えを教えちゃったら面白くないでしょ。だって、そこが起業する準備期間の醍醐味なんだから。ネットで調べたり、本を読んだりしながら、ニヤニヤ、ワクワク、ドキドキするのがいいんだよ。

里佳 それで「起業 やり方」ってググってみたら、「定款がなんちゃら」とか、「法務局どうちゃら」って書いてあって、「これはヤバイ!無理だ!」と思って、一回ストップしたんだよね。それが中一のとき。そんとき、5つ部活やってたから忙しくって、ちょっと忘れかけてたんだよね。

パパ でも一度、失敗したけど起業に向けてチャレンジしたときもあったよね?

里佳 中1で起業の話してから、パパってずっと「まだ起業しないの?」って聞いてきたよね。で、実行してない自分が悔しくて、ある日、よくわからないけどとりあえず「法務局、行くか」と思って、学校帰りに制服で法務局へ行った。

 で、「会社の登記、どこでできますか?」って聞いたら「お父様とかのですか?」って言われて。「えー、違います、私のです!」って言って。

パパ そりゃ制服の女の子が来たら、そう思うのも無理ないよね。

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里佳 「ちょっと待ってください」とか言われて、後ろからいろんな人が出てきて。「今何歳?」って言われて、「もうちょっとで15です」と。「15歳になったら会社つくれるから、じゃあ、説明します」みたいな感じで説明されたんだよね。まあ、正直、その説明もワケわかんなくて。書類とかもいっぱいもらったんだけど、こんなの書けないよって思って……。

パパ 行動に移したんだよね。偉いじゃん。

里佳 どんだけ面倒なんだよ、って思った。

パパ 「まだ起業しないの?」って言ってたのは、別に、どうしても起業させたいからじゃなかったんだよ。ただ、里佳が「起業したい」って言ったのに、行動してないことがダメだと思った。「難しいからやめた」って言うにしても、「難しい」ってところまで行ってないじゃん、って。

 起業ってそんな簡単じゃないことはわかってた。でも、「難しい」ってなって、そこを突破できるかどうか、そこを見たかったんだ。だから、起業について調べてるのはわかってたけど、そこから動いていない事実を指摘したんだよ。

里佳 パパは起業のとき、法務局行ったの?

パパ 僕は、自分で法務局行ってなにかやったわけじゃなくて、やっぱり行政書士さんのところへ行って一から十まで全部やってもらったからね。

里佳 なんで教えてくれなかったの(怒)?

パパ 里佳が本当に「起業したい」ってパワーを持ってるかどうかのテストにもなるじゃん。だから、手助けせずに、どこまでやるのかなあって見てた。まあでも、自分で法務局まで行って、いい経験したんじゃない?

里佳 まあね、今じゃ笑い話。

パパ そうかそうか。で、中3の冬頃に、起業熱が復活したんだっけ?

里佳 というか、あるとき、ちょっと事件が起こって。わたし、中3のときに男の子をたらしていたんだよね。

パパ ん?

里佳 男の子をたらしてたの。

パパ いろんな人と付き合ってたってこと?

里佳 とっかえひっかえみたいな。

パパ それはまた……。

里佳 そしたら、フェイスブック上で男子10人ぐらいから悪口をバーッて書かれて。「はぁぁ、こわーーっ」てなって。

パパ ……。

里佳 でも、やっぱり、やられっぱなしじゃ嫌でしょ。どうにかして見返したい。どうしたらいいんだろうと思って、そこで12月25日クリスマスの朝に、パパに「わたし起業するから!」って言ったのがきっかけ。

パパ その時の里佳の言葉や表情が真剣だったから、これは本気だな、と思って、すぐその朝10時に行政書士さんのところに連れて行ったんだ。

 まさか、そのフェイスブック事件が最後のひと押しになってたとはね。。。

「起業は人生の勉強だね」

里佳 パパってさ、やりたいって言ったのにやらないことに対して怒るよね。「自分で言ったんならやりなさい」って。

先生・椎木隆太
[株式会社ディー・エル・イー代表取締役]株式会社ディー・エル・イー代表取締役。慶応義塾大学経済学部卒業。「秘密結社
鷹の爪」などをはじめとする、さまざまなキャラクターを保有。1991年4月ソニー株式会社入社。1992年よりソニーインターナショナルシンガポール駐在。1995年ソニーベトナム・ハノイ支社長就任。2001年ソニー株式会社退職後、有限会社パサニア(現株式会社ディー・エル・イー)を設立し、代表取締役就任。現在に至る。

パパ 基本的に、仕事も全部そうだけど、「人が考えつかないようなことを考えつく」って、すごく、大事でしょ? でも、「考えついても実行しない人」ってすごく多いの。実行しなければまったく大したことないんだよ。

里佳 動かない人が多い?

パパ そうだね。考えつくよりも実行する方が大変で。実行してからやりきるというのも、これまた大変。やりきって、さらに結果を出すのは、さらに大変。

 だから、せめて「実行ぐらいしろよ」って、これ社員にもよく言うんだけど。実行すらしないのにどうやって成功するの?

里佳 そうだよね。

パパ 考え抜く。そして、実行する。それは、今後生きていく上でも大切にしてもらいたいなあって思うわけ。

 で、もちろん実行したらそれでOKかというと、そう世間も甘くなくて。結果が出てこそ、やっと次の大きなチャンスがもらえる。結果が出ないと次はないかもしれない、っていう厳しい現実があるのも、感じて欲しいなーと思ってる。とにもかくにも、成功したり、失敗したりしながら、トライアル&エラーを繰り返す。これが大事なんだよ。

里佳 あきらめないで、なんども挑戦するんだね。

パパ 魅力的な人、強い人って、立派な「年輪」があるんだよ。木の「年輪」って、暑い日があって寒い日があるからできる。だからあえて苦労をしたり、失敗したりという経験がすごく強い人を作る。起業というのは、そういう意味でもいい経験になると思うよ。

里佳 つらいの、大変そうだな……。

パパ 部活だってそんなに厳しい部活動じゃなかったでしょ? 5つぐらいやってたけど。

里佳 楽しかったよ。

パパ それはそれでいいんだけど、これから人生で、いろんな苦労があったり、ストレスがあったり、突破できない壁が現れたりする。「どうしたらいいの?」っていう場面に遭遇する。

 だから起業を通じて成長することで、できなかったことができるようになるのは、すごくいい経験ができるんじゃないかな。

里佳 起業は「人生の勉強」だね。

パパ ほんと。学校では学べない、すごく大切なことを学べると思うよ。

(続く)

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