「母親がうるさいんですよ。男の子が欲しいから子どもをもう1人作れって言うんです。うちは娘2人で楽しく暮らしていますし、ずっと共働きで子育てをしていたのですが、下の子がこの春で小学校で少し手が離れるので、妻も仕事を増やしたいと張り切っています。3人目の子どもは正直言って負担です。そもそも、妻も今年で40歳ですし」
そう語る彼は、40代前半のサラリーマン。若いころはさぞ美少年だっただろうと思わせる色白で整った顔立ち。さらに一流国立大卒一流企業勤務、この若さで部長職にあるエリートだ。
優秀な息子の遺伝子を
残したい母親
母親が溺愛して育てたという割には、自分の母親を客観視することもできる精神的にも成熟したナイス・ミドルだといえる。この完璧な息子を産み育てた母親からすれば、優秀な遺伝子を、なんとか子孫として残したい。つまり、男の孫が欲しいと思う気持ちも分からないではない。
「母は、やっぱり『跡継ぎ』が必要だからと言いますが、うちの家系は別に名家でも資産家でもありません。残すほどの名前でもないですからねえ。それに、自慢じゃないですが、妻は僕よりずっと優秀で、最初の子どもができたときも、僕が産休を取って彼女には十分に仕事をしてもらおうと思ったくらいですから。取引先のメーカーに勤めているのですが、入社2年目で経営企画室に抜擢されたくらいなんです。美人だし仕事もできてカッコいい女性なんです。最初のデートのときは、本当に嬉しくて舞い上がっちゃいました」
と、ここからしばらく妻の自慢話が続く。
いまどき珍しいほどうまくいっている夫婦である。そして、そんな優秀な妻だからこそ、仕事を頑張ることのできる環境を作ってやりたいと彼は思うわけである。
出生率が低いのは
環境に恵まれた先進国
さて、少子化が問題視される昨今だが、多くの人には誤解があるようだ。環境さえ整えば人は子どもを作る、という誤解である。だから、自治体は第三子出産に補助金を出したり、有識者は保育所や産休制度の充実を叫ぶ。しかし、人は環境で子どもを産むわけではなく、文化で産むのである。