「来年の4月に離婚しようと思ったら、どのくらいの時期から離婚の話し合いとか調停を始めたらいいのかしらねぇ」
58歳専業主婦の妻は頬づえをついて空を見る。彼女は1歳年上の夫と10年近く前から会話もなく、「妻という名の家政婦から抜け出したい」と、2007年4月1日から施行された「離婚時の年金分割」のタイミングに合わせて離婚を考えてきたのである。
離婚の話し合いは彼女の心配通りかなりの時間がかかるため、タイミングを計るのは間違いではない。相談を受けている実感では、夫婦の話し合いだけで離婚届に署名押印して役所へ届ける「協議離婚」には1年から3年を要する。
その間に業を煮やして夫婦いずれかが第3者の介入を求めて家庭裁判所へ「離婚調停」を申し立てた場合、ほぼ月1回開かれる調停は、離婚成立までに6回から10回程度行われて決着することが常であるため、盆暮れの調停休み期間を含めると1年近くかかる計算となる。
さらに会社員の夫は定年退職を迎えた。彼女は財産分与として夫の退職金半分を請求する予定でもある。
熟年離婚が
減少した理由
厚生労働省統計情報部の発表によると、1988年から毎年1万件平均で右肩上がりだった離婚件数が2002年度の総数28万9836件をピークとして減少を始めた。
離婚件数増加の原因でもあった熟年離婚の増加が減少へと転じた。なかでも結婚期間20年以上の夫婦による離婚が約4万5000件から4万2000件へと激減した背景には、新設され2007年4月に施行された離婚時の年金分割制度と2008年4月からの第三号分割制度を待った熟年妻たちがいる。
団塊世代の夫たちが定年退職する時期と年金分割新法の施行を視野に入れ、いや、明確にその時期を狙って熟年妻たちが、離婚計画を練り始めたのは2004年の年金改正のころだった。
私が行っている個別の離婚相談だけでなく、毎月開講している「離婚の学校」講座の中でも度々質問を受け回答しなければならないため、当時の年金法(案)等をすべて読み、分からないところは社会保険労務士に教えてもらいながら、年金問題に詳しくならざるをえなかった。
離婚時の年金分割の基本的な仕組みを復習しておこう。
■離婚当事者の婚姻期間中の厚生年金(共済組合)の保険料納付記録を、
離婚時に限って当事者間で分割が認められる。
■施行日以降に成立した離婚が対象。ただし、施行日以前の婚姻期間中
の厚生年金の保険料納付記録も分割対象。