栃木には今、勢いがある。
それって、華厳の滝? 宇都宮餃子? U字工事? ごめんねごめんねー……って、いやいや、そうではない。
先月21日に行われたイベント「下野杜氏(しもつけとうじ) 新酒発表2010」に参加して、“新世代栃木の酒”のポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられた。
一般の部では500人近い日本酒ファンで賑わった「下野杜氏 新酒発表2010」
一般的には酒どころとしてのイメージが希薄な栃木県だが、侮ることなかれ。ここ数年で世代交代した複数の若手蔵元が頭角を現し、互いに切磋琢磨することで飛躍的に酒質を向上させ、日本酒通のあいだではちょっとしたブームを引き起こしているのだ。
現在、栃木県内には36の蔵が稼動しているが、そのなかから26蔵が出展。
かつての地酒ブームを支えた「四季桜」をはじめ、銘酒居酒屋ではなじみのある「開華」「天鷹」「東力士」の古参組に加え、「松の寿」「姿」「仙禽(せんきん)」「大那(だいな)」「辻善兵衛」「愛乃澤」「富美川(とみかわ)」「旭興(きょっこう)」「澤姫」など注目銘柄が一同に揃った(ちなみに「松の寿」と「姿」は本コラムの利き酒バトルでも登場し、いずれも好評価を得ている)。
なかでも、酒を求めて客が殺到しブースがひときわ賑わっていたのが、いまや全国区の人気と実力を誇る「鳳凰美田」だった。
廃業寸前の蔵を立て直した
5代目蔵元の慧眼と妻の功
「鳳凰美田」を醸造する小林酒造は1872(明治5)年に創業。酒名は、蔵が日光連山の豊富な伏流水に恵まれた美田(みた)村という良質な米の産地にあったことから命名されたという。
酒造りの総指揮を掌るのは5代目・小林正樹専務。東京農大を卒業後、国税庁醸造試験場(北区滝野川にあったが、後に独立行政法人となり96年に東広島市に移転)で2年間の研修を経て90年に蔵へ戻る。