その生い立ちから習近平を昔から知る共産党関係者は私にこう語ると同時に、「今回の習馬会で中国側が最も譲歩したのはこの歴史の部分だ」と主張する。

トップ会談の最大の目的は
来年1月の台湾総統選挙か

 以上、3つの文脈から“中台首脳会談”に体現された両岸の駆け引きを洗い出してみたが、シンガポールに場の提供を委ねる形で実現した歴史的会談をプッシュした最大の動機は、共産党・国民党、もっと言えば習近平・馬英九双方の緊急を要するニーズであり、鍵はやはり来年1月に予定されている台湾総統選挙だったと私は捉えている。

 習近平からすれば、この選挙で対中強硬的な民進党が与党に躍進し、蔡英文が総統になることを阻止すべく(蔡英文が陳水扁のように“台湾独立”を公約し、掲げていくことは考えにくいが)、国民党に勝たせるために今回の歴史的会談に踏み切ったという要素が濃いのではないか。

「習近平にとって、馬英九との会談は来年1月の台湾総統選挙対策だ。目的は、民進党に対岸の与党を譲らせないためだ」(冒頭の紅二代)

 馬英九からすれば、残り数ヵ月となった任期のなかでレガシー(伝説)を残し、かつ国民党が明らかに劣勢に立たされている選挙キャンペーンの流れをひっくり返すには、たとえ荒削りだったとしても、歴史的会談に踏み切るしかなかった、という側面が強いのではないか。

「国務院台湾弁公室として台湾の選挙に介入するつもりはない」(張志軍、“習馬会”後のブリーフィングにて)

 “馬習会”が歴史的であったことは疑いなく、ホットラインの開設や上記3つの分野におけるやり取りを含め、中台関係をこれまでよりも安定的にマネージしていくという意味では未来志向型の会談であった。一方で、双方の思惑が主に“2016年1月”に置かれていたことを考えると、この会談が若干投機的であった側面も否めないと私は捉えている。

 とりわけ、“習馬会”実現に必要不可欠であった九二共識に関しては、中国側は“一個中国”をその核心的認識に据えるのに対し、台湾側は“一個中国、一中各表”に据えている。中国側は「中国は1つであり、台湾は中国の一部である」というタテの帰属性を強調してきたのに対し、台湾側は「中国は1つである」ことを承認しつつも、その中身については「各自がそれぞれに述べ合うこと」というヨコの並列性を強調してきた。“中身”とは言うまでもなく中華民国を指し、それは決して中華人民共和国に帰属しているわけではないことを示している。