愛国心を重視する米中より
“愛国的”なシンガポール
「なんだ、この国旗の数は……」
シンガポールの街を歩いていると、何処へ行っても赤と白を基調にしたシンガポールの国旗にぶち当たった。7月中旬のことだった。
道端のショップや樹木に小さめの国旗が掛けられていたり、それらが風で飛ばされて地面に転がっていたり。高層マンションを見上げると、一面ベランダに国旗がぶら下がっていたり。
「Our People, Our Home」
「Powering Nation, Happy Birthday Singapore」
こんなスローガンが記された巨大な横断幕もあちこちで見かけた。特定の空間でこれだけたくさんの国旗を目にしたことはかつてなかった。現場の空気から、政府が意図的に手配しているものと、国民が自主的に掲げたものと両方あるように感じた。
タクシーに乗りながら、シンガポールのメイン通りであるオーチャード通りに差し掛かる。道路はスムーズに進行している。特に渋滞もない。インフラは整っており、人々は一定のルールの下、言動を共有しているようだ。先進国の匂いがする。緑化政策に力が入れられている一方、地下鉄や高層ビルの新たな建設も進められている。
「独立記念日はこんなものじゃないですよ。国旗の数は更に増えます。リー・シェンロン首相が出てきて、この辺りで行進・演説し、シンガポールが如何に素晴らしい国家かを徹底的に強調するんです。まるで共産主義国家のようですよ」
隣にいた知人が、あまりに多くの国旗に翻弄されている私にこう語りかけてきた。
8月9日の独立記念日まではまだ2週間以上もある。中国と米国という、“愛国心”を鼓舞することによって「国民」の「国家」に対する忠誠心やコミットメントを意図的に促そうとする傾向が顕著に見られる国で暮らしてきたが、米中二大国と比べても、シンガポール共和国における国旗の密度は度を越えているように私には映った。そして、公共空間を往く人々は、そんな国旗の存在を意に介している様子はなかった。そこにあるのが当たり前、とでも言わんばかりに。