ハーバードで20年以上、オペレーションマネジメントを教えるアナンス・ラマン教授。「私はトヨタ自動車の大ファンだ」と公言してはばからない。インドの小さな町で生まれ育ち、インドの靴工場で働いていたラマン教授にとって、トヨタ自動車は憧れの存在だった。

ハーバードの教員になってからもトヨタ自動車を研究しつづけ、「なぜ他の企業がどれだけ真似しても、トヨタになれないか」が分かったのだという。ラマン教授が発見したトヨタの秘密とは?(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月22日)

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なぜトヨタはオペレーションの教科書なのか

アナンス・ラマン Ananth Raman
ハーバードビジネススクール教授。専門はビジネスロジスティックスとオペレーションマネジメント。特に需要が不確実な製品のサプライチェーン・コーディネーションを専門に研究。MBAプログラム、DBAプログラム、および、エグゼクティブプログラムで、サプライチェーン・マネジメント、サービス・オペレーション、投資家視点から見たオペレーション等を教えている。"Supply Chain Management at World Co., Ltd."(2001)など、日本企業についてのケース教材や記事を多数執筆。主な著書に“The New Science of Retailing: How Analytics Are Transforming the Supply Chain and Improving Performance” (Harvard Business Press, 2010)。

佐藤 ハーバードでは日本企業の事例も教えていらっしゃると伺っています。

ラマン いくつか教えていますが、中でもトヨタ自動車の事例はオペレーションを学ぶ上で絶対に欠かせません。エグゼクティブプログラムのオペレーションマネジメントの授業は、トヨタ自動車の事例からはじまります。オペレーションの存在目的は、「普通の人々が力を合わせて大きな偉業を成し遂げること」です。トヨタほど、それを伝えるのに適した会社はありません。

佐藤 ハーバードだけではなく、どのビジネススクールでも、必ずトヨタ自動車の事例を学びます。ビジネスリーダーは、トヨタ自動車から何を学ぶべきだと考えていますか。

ラマン 私の個人的な体験からお話ししたいと思います。トヨタ自動車は私にとって特別な会社なのです。

 ペンシルバニア大学ウォートンスクールの博士課程に進学する前、私はインドのユニリーバの子会社で働いていました。私の仕事は、管理職として靴工場の生産管理をすることでした。

 あるとき、会社の経営陣が「我が社も『日本式生産方法』(Japanese Manufacturing)を取り入れるぞ」と言い出しました。『日本式生産方法』とは、トヨタの「ジャスト・イン・タイム」(必要なものを、必要なだけ、必要なときに作る生産方式)のことです。当時、インドでは、そのように呼ばれていました。

 さて、その後、どうなったか。日本式生産方法の専門家と称するコンサルタントが会社に招かれました。何人かの担当者が代表で、コンサルタントが主催する日本式生産方法のセミナーに参加することになりました。セミナーが終わると、靴工場でも日本式生産方法が導入されることになりました。担当者は「これから、この工場も“日本式”でいきます。さあ、皆さん、同じ作業服を着て、同じ時間に体操をしましょう」と張り切っていました。つまりトヨタのオペレーションをそっくりマネすることになったわけです。ところが、見た目はトヨタ風になったのに、靴工場の生産性は全然上がらなかったのです。