中間層による「革命」

大学時代の哲学の授業が、未来を考えるときこれほど役に立つとは思わなかったが、『グローバル・トレンド』を書く過程で私は何度も政治哲学に立ち戻ることになった。未来は楽観的なのか、悲観的なのか。個人のエンパワメントは国に何をもたらすのか。世界は多くの血が流された17世紀や18世紀のヨーロッパのような、新しいカオスの時代に突入しつつあるのか。

現在の技術革命は、過去の技術革命に乗り遅れた人々が飛躍的な発展を遂げる助けにもなっている。アフリカでは2002年以降、携帯電話の契約数が毎年倍増しており、最近ではインターネットを使えるスマートフォンも増えている。現在使われている携帯端末の数は、アメリカの2倍だ。アフリカにおける携帯電話の急速な普及は、モバイル技術が有線インフラの欠如を補い、コミュニケーションとコネクティビティを高める格好の例だろう。モバイルバンキングなど一部の技術分野で、途上国のほうが普及が進んでいる理由の一つは、もともと実店舗が少ないため、モバイルツールのニーズが高いことがある。

個人のエンパワメントは複雑なプロセスであり、最終的にはプラスとマイナス両方の影響があるだろう。プラスがマイナスを上回ることを祈りたいが、短〜中期的には(15〜16世紀と同じように)、新しいテクノロジーによって力を得た中間層の台頭が、破壊的な結果をもたらすおそれがある。

▼『シフト』著者が語る「日本人へのメッセージ」

第1回「日中関係に21世紀のアジアの繁栄は託されている」

マシュー・バロウズ(Mathew Burrows)
米国の最高情報機関であるNIC(国家情報会議)の元分析・報告部部長。直近の2号である『グローバルトレンド』(2025/2030)で主筆を担当。ウェズリアン大学(学士号)とケンブリッジ大学(博士号)で歴史学を学ぶ。1986年にCIA入局。2003年にNICに加わる。28年に渡って国家情報アナリストとして活躍。リチャード・ホルブルック国連大使の情報顧問を務めたこともある。2013年に辞任し、現在は「アトランティック・カウンシル」戦略フォーサイト・イニシアチブ部長を務める。ワシントン在住。