日本の経済活動を陰で支える経費精算業務。長らく紙の原本が絶対視されてきたが、電子化に向けた規制緩和がいよいよ大きく進むことで、約1兆円ともいわれる日本企業の間接業務のムダが表面化しそうだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)
神奈川県厚木市にたたずむある建物のフロアには、日本中から集められた段ボール箱が、トラックで毎月300~400個ほど絶え間なく運び込まれている。飲食接待費、交通費、物品購入費──。箱の中にはファイルされた領収書がびっしりと詰められており、約10年間にわたって保管されている総数は、約1200万枚に上る。
この場所こそ、野村ホールディングスが管理している日本最大級の領収書の保管場所だ。
全国で働く証券マンら約1万人が申請した領収書は、所定のルールにのっとって「社内便」と呼ばれる物流ルートに乗り、横浜市内にある事務センターに毎日運ばれてくる。そして約20~30人の経費担当チームで働いている女性たちが、1日平均2500通を猛烈なスピードでさばいてゆく。
領収書の一枚一枚は小さな紙切れであっても、数千、数万単位になると途方もない大きさに膨れ上がり、それが大きなコストになって業務にのし掛かる。
同社によると、紙の領収書が大半を占める「社内便」の物流コストは年間約5億円。保管場所の賃料も数億円とばかにならない。台紙にペタペタと領収書を貼って、ハンコを押してもらい、それを処理する時間は人件費のロスになる。1件当たり7分間で入力したとしても、全社で年間延べ20万時間が失われている計算だ。
ところが来年度以降、こうした非効率なコストを大幅に減らせる可能性がある。それは領収書の電子化に関わる規制緩和が大きく進もうとしているからだ。
同社は2014年秋から、経費に係る業務の透明化を図ってきた。世界3万社が採用する経費精算サービス最大手、コンカー・テクノロジーズ(独SAP傘下)と契約を結んで、社員がiPhoneなどスマートフォンのアプリで、外出先から簡単に経費精算できる体制をつくってきた。
社員たちがスマホで領収書を撮影すると、アプリを通してクラウド上に経費精算の画像データが記録される。ホテルの宿泊費や接待費が会社の定める上限額を超えたり、週末など勤務外でタクシーに乗車したりするなど、規約違反があれば自動的に警告マークが出る。
過去にどのような客と会食したかといった履歴も蓄積されて「見える化」できる。そして上司からアプリ上で経費の承認サインをもらうのも簡単だ。
「飛行機と新幹線をどのように使えば出張費が安くなるか比較するなど、会社全体の経費データの分析も進めています」と経費業務企画室の田中英和室長は語る。