米国株「雇用統計ショック」後の3シナリオ、AI主導相場の持続性と投資戦略Photo:PIXTA

米国株は、トランプ関税のかく乱、景気の不確実性の下でも、AI主導のラリーを続けている。持続する相場ラリーの背景は何か。そして、その延長線上で、8~9月、10~12月をどう読み、どう対応したらよいか。正解の存在しない不確実性下での相場にいかに対処するか、そのロジック、テクニックを体感する一助として、筆者の見方、取り組み方を紹介する。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

4月のトランプ関税ショック以降の
米国株を持続させた三つの背景

 米株式相場は、トランプ政策の不確実性がくすぶる中でも、楽観に走り、高値を更新している。先行きが判然としないが故に、逆に悪化の具体的な兆しも心配のしようがない。そうであれば、速い相場上昇にとりあえず乗っていくしかない、というふうである。筆者は、この延長で、年末へ相場を取り込む算段をしている。

 速い上昇相場は、利益確定売りの潜在的圧力を募らせ、それ相応の自律反落が付き物ではある。しかし、4月のトランプ関税ショックを脱して以来の相場ラリーに目立った反落は生じていない。背景で何が起こっているのか。

 第一は、相場をけん引するAI需要の大きさが再認識された。AIの経済社会への普及はまだ序盤とみている。AIインフラとしてのデータセンターの建設はまだまだ進み、当然、AI半導体の需要も旺盛である。AIの膨大な情報処理を賄う電力も必要になる。AIの活用現場では、システム、ソフトウエアなどAIエージェントの裾野が急激に広がっていく。

「そんなこと、言われなくても当然」と言われそうである。しかし、3月に自律調整を深めたAI相場が4月の関税ショックで一段安になると、「AIテーマは終わった」とか「米エヌビディア株の限界」を主張する声が強まり、不安を募らせた人は少なくないだろう。筆者が、「相場の再参入はやはりAIから」と語ると、「強気ですね」などと言われたものだ。

 相場論調の9割以上は、単なる値動きの追認であり、株安になれば、株安を正当化するように材料の解説がなされ、ストーリーが組み立てられる。筆者はこれを、「相場情報のわなあるある」として、繰り返し訴えている。不確実性が強いほど、根拠の乏しい相場追認論が横行しやすくなる。その点を心して臨んでいただきたい局面はまだ続くだろう。

 第二は、米トランプ政権によるAI支援がある。ドナルド・トランプ大統領が果たしてAI分野にとってプラスかマイナスか、市場はヤキモキしながら見守った。そして、やがてプラスを確信するに至り、相場に勢いがついた。

 5月に、AI盟主エヌビディアが好決算でも、AI関連の相場の進行は恐る恐るだった。しかし、6月にはトランプ大統領が中東訪問で大規模なAIディールを取り付けた。7月には、対中国で米AI半導体(旧タイプながら)の輸出を承認。また、AI需要を賄うデータセンター、発電所への設備投資の支援も明確になった。

 第三は、相場ラリー自体に反落の圧力を減じる作用が見られる。AIには景気要因を超越する需要が期待される。それでAI株ばかりが上昇する相場なら、やがて非AI銘柄との格差拡大が大きなリバランス(割高な株を売却し、割安な株と入れ替える)取引を招き、AI相場の反落調整リスクとなるだろう。

 実は、筆者は5月以来のAI相場のサマーラリーが、7月後半には反落かと、値動きのリズム解析に注力していた。折々にそれらしい調整リズムは出た。しかし、それが相場全体に影響するほど大きくなることはなかった。

 そこにはまず、トランプ政策や決算の好ニュースが、調整リズムを押し返す展開があった。さらに興味深かったのは、銘柄・業種間の小刻みなローテーションだった。速い相場への投資家の工夫であろう。

 AI半導体内、AI半導体と非AI半導体、AI半導体とAIソフト、AI系と米GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)や非AIテック、テックと景気・バリューなどの代わる代わるのローテーションでの浮沈が、下落圧力を小刻みにガス抜きし、AI主導ラリーを持続させたといえる。

 8月1日発表の雇用統計の下方修正で米国株は急落した。次ページでこれについての筆者の見解を示すとともに、今後の投資戦略を解説する。