4年前に筆者が訪れたときと比べて、中間層にまで高速鉄道利用者の裾野が広がったと感じた中国・無錫駅の様子 Photo by Izuru Kato

 「二つの中国」。10月17日号のコラム『「フォースと共にあらんことを」 FRBが抱く中国経済への願い』でも触れたが、中国では現在、インフラ開発関連の重工業、建機、または人民元高で打撃を受けている労働集約型の製造業といった「オールドチャイナ」は、深刻な業績悪化に陥っている。

 一方で、中間層の所得増加をうまく捉えることができている消費関連業種、あるいはハイテク産業や環境産業といった「ニューチャイナ」は好調である。

 先日の中国出張で「二つの中国」があらためて実感された。上海から南京方面に向かう高速鉄道に40~50分ほど乗ると無錫に着く。日本企業の工場が多いこの地で話を聞いたところ、やはり鉄鋼、建設・建機関連の業績はかなり悪いという。

 しかし、スマートフォンの電子部品、販売が上向き始めた自動車部品関連は非常に元気で、積極的な増産も見られる。農業機械も政府の補助政策もあって好調である。

 成長を見せる「ニューチャイナ」の背景には中間層の所得増加がある。無錫では多くの工場が、昨年まで賃金を毎年10%前後引き上げ続けてきた。そうしなければ、人材が確保できなかったからである。今年は、上昇率が6~7%程度に落ちそうだが、10年前、5年前に比べると、所得は大幅に上昇している。

 昨年の中国全体の名目賃金は10年前に比べ、3.5倍となっている(最も伸び率が高かったのは金融業の4.5倍)。賃金がこれだけ増加すると、以前は買えなかった商品に手が届くようになった人が増えることになる。

 その代表例が米アップルのiPhoneだ。中国ではiPhoneを持つことは経済的ステータスを表すとの意識が非常に強い。4~5年前には、憧れのiPhoneを無理して購入したため、他の支出を切り詰めていた知人が筆者の周りにも少なからずいた。