「ぶり奨学金」制度創設に一役買った井上貴至・長島町副町長(写真左)と長元信男・東町漁協代表理事組合長

 それに対して井上副町長は「ぶり奨学金は制度として十数年残る。しかもこれは全国でまねできる仕組みだ」と語る。少ないリスクで地域に長く残る仕組みを、しかも短期間で築いたのである。

 これが実現できたのも、他ではなかなか結びつかない漁協や信金、大学などを井上副町長がつなぎ、新しい発想を生んだからである。鹿児島相互信用金庫の稲葉直寿理事長は「以前から教育ローン制度はあったが、こうした発想はこれまでなかった」と述べる。

 長島町が注目を集めるのは、独自の奨学金制度だけではない。外部と連携してお金をかけずに、次々に新たな事例を生み出していることにある。キーとなるのが外部人材の力だ。

地元の目線を外に向かせ
そのパワーを引き出す

 15年11月初旬、長島町は求人検索エンジン「スタンバイ」を運営するビズリーチとの提携を決めた。

 国の財政措置が受けられる「地域おこし協力隊」制度を利用し、さらにビズリーチが無料で提供する求人機能を用いて、人材を「公募」することにしたのである。

 これまで人材募集といえば、もともとその町に関心を持つ人や紹介等でしか集めることができなかった。それに対して、長島町は求める人材像を24職種別に明らかにし、それを自らが全国に発信したのである。

 結果、提携決定からわずか1カ月余りで、東京大学の学生や京都大学の研究生、鹿児島県出身の料理人など、若者を中心に二十数人が名乗りを上げた。

 長島町はお金をかけずに、地域に関心の高い若い人材を獲得することができたのである。

 さらに外部との提携は続く。料理レシピサイト「クックパッド」で、長島町の特産品を使ったレシピを掲載した公式ページを立ち上げた。レシピを投稿するのは、町の婦人会の女性たちで、毎日1000件近いアクセスを集めている。

 また、町の特産品の届く定期購読誌「長島大陸食べる通信」を創刊。地域の人々が編集を通して地域を見つめ直し、外部にその魅力を伝えていくものである。ほかにも楽天との提携やECサイトの設置など、自治体にもかかわらず、そのスピード感はITベンチャー企業も舌を巻くほどである。

「島の人だけでやるには難しいことも、外の力を利用することで、眠っていた地元の力を引き出すことができる」

 こう語るのは楽天出身でコアース代表の土井隆さん(30歳)。実は、土井さんが町とこうしたIT企業とのつなぎ役になった。土井さんは井上副町長に誘われて、15年10月には地域おこし協力隊として長島町に移住している。 

 町にとっても、井上副町長や土井さんといった若い「よそ者」が加わったことは大きな効果をもたらしている。もともと長島町は2006年の合併まで、一つの島ながら東西2町に分かれていた。地域内の対立が長らく続いてきた歴史があり、その「しこり」はいまだ地元の人間関係に影を落としている。