2015年9月の安保法制成立後、予想通り安倍晋三政権は「経済政策」に集中している(第117回)。首相は、「新しい3本の矢」(希望を生み出す強い経済、夢を紡ぐ子育て支援、安心につながる社会保障)によって、「名目GDP600兆円」「希望出生率1.8の実現」「介護離職ゼロ」を達成する「一億総活躍社会」を打ち出した。そして、その実現に向けて補正予算が組まれ、自民党税制改革大綱ではさまざまな減税策を決定した。また、2017年の消費税率の10%への引き上げに向けて「軽減税率」導入のための自民党・公明党の連立与党の協議も結着した。

 この新しい経済政策には、来年7月の参院選に向けて国民に「期待」を持たせるだけのものという批判がある。だが、安倍政権の支持率は回復し、安保法制審議前の水準に戻った。結局、アベノミクスにいろいろな問題点があっても、それが「失われた20年」の長期経済停滞に苦しむ国民に一息つかせているという事実が侮れないことを、あらためて痛感させられる。経営者も現場のサラリーマンも、アベノミクスを簡単に否定しがたい心情があるのだろう(第109回・2P)。予想通り、安保法制の時の激しい反対運動は雲散霧消し、選挙をやればこれまでと同じく、「安倍政権がまだマシ」という消極的支持を受けることになるのだろう。

 しかし、安倍政権の積極的な経済政策の陰で気になるのは、「最強の官庁」財務省の存在感が希薄なことだ。今回の論考は、そんな財務省に「喝」を入れることを目的としたい。結論から言えば、「物わかりのいい」財務省などいらない。今こそ財務省は、耳が痛い「財政健全化」をしつこく言い続けて、政治家、他省庁、業界、メディアから批判される「悪役」に徹するべきである。

選挙対策としか
言いようがない補正予算

 この連載では、安倍首相が「一億総活躍社会」を打ち出すやいなや、各省庁が早くも「一億総活躍」予算獲得に向けて動き始めたことを指摘した(第117回・4P)。いつものように、従来からの政策に過ぎないものを「一億総活躍社会」の看板を掲げて打ち出し直して、新たな財源を確保して省益拡大につなげようとする「省庁間の縄張り争い」となった。その結果、3.5兆円規模の補正予算は、明らかに「選挙対策」としか言いようがないものとなってしまった。

 例えば、年金額が少ない高齢者に1人あたり3万円、総額3300億円を配ることが盛り込まれた。低年金者には資産を多く持つ人もいて、全員が貧しいとは限らない。これには、小泉進次郎氏など自民党内からさえ、「なぜ高齢者ばかりかと若い世代は思う」「バラマキのイメージが先行してしまう」と批判が噴出した。