この連載で、何度も論じてきているが、安倍晋三政権は、昨年9月の安全保障法制成立後、「経済政策」に集中する姿勢を打ち出している(第117回)。今回は、アベノミクス「新・三本の矢」と「一億総活躍社会」について論じたい。結論から言えば、安倍政権は、野党がやるべき政策を奪ってしまった。このまま7月の参院選に突入すれば、野党は共産党を除き、壊滅的惨敗を喫することになる。
「新・三本の矢」「一億総活躍社会」への批判:
アベノミクスの失敗隠し・支持率維持のための目くらまし
「新・三本の矢」「一億総活躍社会」は、さまざまな批判に晒されている。そもそも、「一億」という名称が時代錯誤だと言われる。「一億」で「全国民」を意味する言葉の使い方は、第二次大戦前から存在するが、「進め一億火の玉だ」「一億総懺悔」など、国民一人ひとりの「個性」「多様性」を潰し、全体主義に突き進み、結局国家を崩壊させた歴史と直接結びつくものだ。「一億」という名称から、忌避感を覚えた人は少なくない。
また、「新・三本の矢」という政策自体も厳しく批判されている。「名目GDP600兆円」は、年3%以上の成長率を継続して、2020年度に達成されるが、現状の経済成長率は年1%をやっと超える程度でしかない。「希望出生率1.8の実現」についても、非現実的な目標である。「介護離職者」に至っては、2015年になって急増している現状をどう変えるというのだろうか(第117回・4p)。目標達成のための具体的な政策はまったく見えず、単に数字を掲げているだけである。
そして、いつものように各省庁の「縄張り争い」が始まっている。従来からの政策に過ぎないものを「一億総活躍社会」の看板を掲げて打ち出し直して、新たな財源を確保して省益拡大につなげようとしている。介護施設を2020年初頭までに50万人分増やすなど、安倍政権がまとめた一億総活躍社会実現のための緊急対策は、明らかに「選挙対策」としか言いようがないものとなってしまっている(第121回)。
更に言えば、これまでの「アベノミクス・3本の矢」はいったいどこへ行ってしまったのだろうか。特に、「3本目の矢・成長戦略」は一気に存在感を失った。例えば、岩盤規制を突破する切り札だったはずの「国家戦略特区」は、石破茂地方創生相に丸投げで、安倍首相は関心を失ってしまったようだ。構造改革派の学者、経済人、官僚の失望は非常に大きい。結局、「新・三本の矢」「一億総活躍」とは、アベノミクスの失敗を隠し、内閣支持率を維持するための目くらましでしかないと批判されているのである。