昨年7月、EU諸国はギリシャへの第3次支援を綱渡りで乗り切ったが、南欧諸国は緊縮財政を強いられ国民の不満が鬱積している。こうした意思決定を事実上差配しているのは、強国ドイツであることは周知の事実だ。一方、昨年2度にわたってフランスで起きたテロを契機に、移民への反発が強まっている。
これまでEUの盟主としてユーロを守ってきたメルケル首相は、南欧諸国から恨まれるだけではなく、南欧への支援や移民政策などをめぐって国内からも批判されることが増えてきた。ドイツがどういう立場を取るのかによってユーロの運命は決まる。もしユーロの存続が危機に陥った場合、世界経済の不安定性はいっそう増すことになる。もちろん日本への影響も計り知れない。
ギリシャのみならず国内からも強まる批判
メルケル首相に向けられる冷たい視線
昨年7月に決定されたギリシャへの第3次支援に際しては、長く続けられてきた緊縮財政への不満がギリシャ国民の間に充満した。第二次世界大戦中のドイツの行為に対する賠償支払い(損害賠償と当時の融資の合計で約1600億ユーロ=約21兆円)が公然と議論され、メルケル首相をヒトラーに例える風刺画が出回るなど、険悪な雰囲気に陥った。
なぜドイツに不満が向かうのか。EUには公式には欧州委員会、理事会、欧州議会があるのだが、その意思決定は結局各国の利害調整に終始し、迅速に行動できない状況にある。そのため、ギリシャ危機のような緊急時には、ドイツ・フランスに、ECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)などが加わった「インナーサークル」が事実上物事を決めており、特にドイツが最終判断しているからだ。
リーマンショック後に行われたギリシャへの第1次・第2時支援に伴い強制された緊縮財政も、ギリシャ国民から見れば、メルケル首相による暴挙と映るのは無理もない。しかし一方のドイツ国内では、いわば「ナマケモノ」の南欧への支援には反対意見も多く、同首相としても難しい判断だったことは間違いない。
加えて、昨今は中東の混乱による難民問題でも利害が激しく対立する中、メルケル首相がドイツはもちろん、EU各国が難民を積極的に受け入れるべきとの方針を示してきたことについても、批判が出ている。もちろん同首相も苦渋の決断ではあったはずだ。そもそもEUの出発点が、2つの大戦を経て欧州の融和と人種差別の排除というドイツの決意から生まれたものであり、メルケル首相自身が東ドイツの出身で人権問題にそれなりに敏感であったことなどの背景があったのだろう。